撮影地:エア湖(Oodnadatta Track)

● 逃避行-5
やはりランクルは世界一の車だった。豪雨からの逃避行は無事ウナダッタ・トラックとの分岐点に至ったのだ。「やれやれ、ここまで来れば」と生還を実感した刹那、車の挙動が乱れた。車を真っ直ぐに走らせることができない。路肩に向かって車が流れていく。まるで氷の上を走るような感覚だ。「やばい!やばい!」、肝を冷やして車を止めた。足を路面に踏み出してみると、ブーツのソールが数センチ粘質の高い泥に沈んだ。雨にしたたかに打たれたウナダッタ・トラックの路面が軟らかい粘土状態になり、車のトラクションを奪っているのだ。一難去ってまた一難、ウイリアム・クリークまでの数キロをワシは酔っ払い運転のような千鳥足で走った。振り返ると、路面には蛇行を繰り返した轍が盛大に刻まれている。そして、ようやくウイリアム・クリーク・ホテルに到着。ここまで何と長かったことか。何かを達成した気分。芸術的と言えるほど泥だらけになったランドクルーザーの姿もワシにとっては勲章だった。誰かに見せびらかしたい、誰かにこの逃避行を話したい。パブに入ったワシは饒舌だった。VBを一気に飲み干し、エア湖からの逃避行をそこに居合わせたローカル数人へ雄 弁に語った。ビールのほろ酔いも手伝って興奮は一向に冷める気配がない。すっかり陽の傾いた外に出て西の空を眺める。大いなる逃避行の最後を飾るかのように、雨雲を照らす夕焼けがいつもより何倍も壮観に見えた。

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Nikon F4 with MF-23,
Ai AF Zoom Nikkor 28-85mm F3.5-F4.5S,
Fujichrome PROVIA 100F (RDP III)
Aperture-Priority Auto @ F5.6
William Creek, Oodnadatta Track, South Australia
October, 2001

2002.08.19 掲載