そろそろ「エアーズロック」はやめようか

--エアーズロックとマウント・オルガ--

 



中央オーストラリアの大荒野にそそり立つ巨大な一枚岩、"地球のへそ"と言われるエアーズロックである。そのスケールと夕陽に赤く染まる鮮烈な美しさ、そしてアボリジニの伝説に彩 られ、この岩は人々を強く惹きつけてきた。日本に富士山、カナダにロッキー山脈があるようにエアーズロックはオーストラリアのシンボルである。更に言えば、グランドキャニオン、アルプスやヒマラヤの峰、アマゾン河、ギアナ高地など、世界的に著名な自然景観に伍して、エアーズロックは間違いなく地球を代表する風景の十肢に数えられよう。勿論、有名な世界遺産にも、ウルル/カタ・チュタ国立公園 Uluru/Kata Tjuta National Parkとして登録されている。 オーストラリアを旅する者にとってエアーズロックは一つのテーマであり、アウトドア派の冒険者達にとどまらず、都市のお姉さん達まで白粉のように日焼け止めを塗り、ハエを振り払いながらやってくる。老若男女、国籍を問わず幅広い層に支持される世界的観光地である。

国立公園の名前にある"ウルル"とはアボリジニの言葉でエアーズロックを表わす。意味は"集会の場所"。信仰の対象として人々が集った場所は、いつしか観光地として世界中の人々を集め続けている。その数年間50万人。各地でアボリジニの復権が盛んであるが、1985年にエアーズロックを含むこの周辺の土地もアボリジニに返還された。その影響であろうか、ウルルという名前も昨今復権が著しい。最近ではエアーズロックと単独で表記されることは少なく、"(ウルル)"と併記されている。もしくは国立公園名のように単独でウルルと呼ばれるケースも多い。

歴史を紐解くとアボリジニがこの地域に進出したのはおよそ一万年前のこと。歴史は流れ1872年に探検家のアーネスト・ジャイルズ Ernest Gilesがヨーロッパ人として初めてエアーズロックを遠望している。そして翌年同じく探検家のウイリアム・ゴス William Gossが登攀と測量を行いエアーズロックと命名する。それからわずか130年ほどしか経っていない。こうしてみるとウルルという呼び名の方がはるかに歴史が長いことがわかる。しかも、エアーズロックのエアーズとはゴス探検隊のパトロンであった南オーストラリアの州書記長(後に州首相)ヘンリー・エアーズ Sir Henry Ayersにちなんでの命名である。今で言えばさながら"橋本の岩"、"森の岩"なんていう何とも無粋な名前なのだ。かってワシはエアーズ = "空気"の複数形と思っていたが、とんでもない勘違いである(恥ずかしい)。

そういう訳で、当HPでは特別な場合を除いて"ウルル"の呼称を用いることにする。 マウント・オルガに関しても同じくカタ・チュタと呼ぶ(カタ・ジュタと言う人もいる)。但し、名称の正統性についての議論は実のところあまり意味がないのかもしれない。いくらアボリジニに1万年の歴史があると言っても、誕生から6億年を数えるこの巨岩にしてみれば、現在に至るまでそのほとんどの期間を名無しの権兵衛で通 してきたのだから。



2001.01.17 掲載
2001.06.19 レイアウト変更・写真一部変更