さあ出発だ!

--Hopeless Departureなのか?--


1年3ヶ月ぶりのオーストラリアへの出発が間近になった。9月中旬から約2ヶ月間ワシは南十字の下にいる。毎日ワクワク、気分は既に南半球と言いたいところだが、なかなかそう簡単にはいかない。当HPは夢を売るサイトと僭称しているので、あまり浮世のゴタゴタした話はしたくはないのだが、簡単にワシの現状を報告しておこう。

8月某日、アメリカから一通のFAXが届いていた。曰く「あなた(貴社)との契約を9月某日をもって解除します。この通 告は契約書第6条にのっとった...云々」、青天の霹靂ではなかった、長年この商売をやっていると、先方の動きが情報に引っかかってくる。仕事に瑕疵があったわけではない、米国と直接やりとりしている時にはうまくいっているのだ。そこにシリコンバレーの日本人が絡んでくると、途端にビジネスを壊されてしまう。予期はしていても、それが事実になるとやはり気分はよくない。

かくしてワシは失業状態になった。この状況下、出発を延期して職探しをするなど選択肢はいくつかあったが、最終的には当初の予定通 り出発することにした。この一年日常の楽しみを犠牲にしてこの日に備えてきた(車もなければ週末のディナーもない、家も学生のようなアパートだ)、親切に再就職に誘ってくれた人たちにも、金が貯まれば再び長期間オーストラリアへ行くのでとお断りした。ここでやめると自分や各方面 へのスジが通らない。しかもこの国が沈没しかけている昨今、延期して来年行ける保証などどこにもない。ワシの生活そのものが構造改革とやらに吹き飛ばされているかもしれない。やはりここは、行けるときに行こう!

とは言うものの、ワシにも周囲の人々にも悲壮感はない。確かに、現状、帰国後の職はない。浜田流に言えば"明日なき出発"である。まあそれはよかろう。仕事は帰ってから探せばいいじゃないか。最悪、オーストラリアでフルーツ・ピッキングでもするか。社長を初め周りの人々は、帰ってくる頃には新しい仕事を見つけておくと言ってくれている。彼らには本当に頭が上がらない、ひたすら感謝感謝である。

浮世の話はこのくらいにして、今回の旅の概要に触れよう。

● 期間:9月中旬〜11月末(右の期間は最も長い場合、資金が無くなった時点で打ち切り)
● 訪問ルート:クイーンズランド北部と内陸部、ノーザン・テリトリー、南オーストラリア

(ケアンズで入国、アデレードから出国)
● 移動:移動は全て陸路(HertzのOutback 4WD Camperが今回の足である)>>>こちら

主な目的地を順に記す。
● ケアンズ北方(デイントゥリー、ケープ・トリビュレーション)の探鳥
ケアンズと言えばグレート・バリア・リーフであるが、その北方には世界遺産にも登録された豊かな熱帯雨林が広がる。そこは野鳥の宝庫、ワシの大好きなカワセミもこの時期、以下のように豊富な種類が見られる。
Laughing Kookaburra, Blue-winged Kookaburra, Forest Kingfisher, Little Kingfisher, Azure Kingfisher, Sacred Kingfisher, Red-backed Kingfisher
また、ケープ・トリビュレーションは熱帯雨林が珊瑚礁に出会う場所として有名である。グレート・バリア・リーフは沖合に広がっているので、大陸本土の熱帯雨林に寄り添うように珊瑚が発達した場所は非常に貴重である。前回は天気に恵まれず、写 真の成果はあがらなかった。今回は乾期、晴天が期待できる。

● カーペンタリア湾
悲劇の探検隊バークとウイルズ一行が史上初めて大陸を縦断してたどり着いた場所がカーペンタリア湾(その後彼らはオーストラリア史に残る悲劇的な結末を迎える。詳しくは『恐るべき空白』で!)。ケアンズを起点として海岸沿いに大陸を一周する国道一号線もダーウイン〜ケアンズのカーペンタリア湾岸のルートのみが欠落している。ここはいまだに焼けつくサバンナとクロコダイルやバラマンディが悠々と暮らすマングローブ林に覆われた辺境地帯。 バーク達が大陸縦断を確信した場所には以前から興味があった。ようやく夢が叶う。彼らの足跡がどのくらい残っているかは定かでないが、できるだけ彼らがみたものと同じ眺めを体験したい。もちろん最果 ての地を存分に満喫するつもりだ。きっとカーペンタリア湾の夕陽は絶品だろう。

● カカドゥ・ナショナル・パーク
また、カカドゥかい?という話もあるが、乾期の訪問は今回が初めてである。雨期に湿原が広がっている時には公園中の広い範囲に鳥たちが散ってしまうが、乾期には湿原の領域が狭まり、野鳥の観察が容易になると聞いた。今回は新兵器として野鳥を狙うために新しいレンズも買った。準備は万端である。カカドゥ撮影の集大成にしたい。

● ウードナダッタ・トラック Oodnadatta Track
南オーストラリアでスチュアート・ハイウエイから分岐するダートロード。有名なエア湖周辺を訪れるとともに、リアルアウトバックを満喫したい。日本で入手できる情報は限られているので、詳細は現地で情報調査を行う。『恐るべき空白』にも登場するエア湖、湖と言っても普段は干上がっている。満水になったのは20世紀中1, 2度だったそうだ。絶望的な静寂と不毛が支配する荒涼とした情景に何を思うだろう。

● マレー河下流域=ハウスボート

キャンピングカーのボート版、ハウスボートを借りてマレー河を一週間ほど旅してみようと思う。問題は果 たして資金が持つかどうかだが...。川の流れに身を任すかのようにゆっくりと航行し、夜は川の畔でバーベキュー。でも一人はちょっと寂しいな...。大好きなマレー河をのんびりと堪能するとともに、ペリカンの華麗な滑空を是非とも写 真に収めたい。

● 所信表明--魂注いで

今回のテーマは原点回帰。オーストラリアに初めて訪れたときのような新鮮な感覚でもう一度あの大陸に触れ、そしてそこで感じるものを撮っていく。写 真も初心に帰って基礎を守り、一枚一枚を丹念に撮っていきたい。

ワシは最近思う。機械が進歩してピントや露出をカメラにほぼ任せられるようになった今日、写 真の善し悪しはシャッターを切る時点では既に決まっている。逆に言うとシャッターを切る前にどれだけの時間と労力と情熱を注いでいるかが写 真に如実に現れるのだ。その土地ごとの最良の季節を選び、光が時間によりどのように変化するかを見極め、ベストのポジションを探し、最良の天候を待ち、当然カメラは三脚に据える。ケーブルレリーズは勿論、ミラーアップまで行いカメラぶれを極力排除する。写 真を撮るためには当然のことなのだが、実地に立つとなかなかできない。言うは易し、するは難し。手持ちで撮ったり、暑さや虫の襲撃に負けて夕方を待ちきれずに撮影地から撤収してしまったりと、ついつい撮影スタイルが安易になっている自分をもう一度鼓舞したい。一枚をものにするために、もっと誠心誠意、魂込めて撮ってこようと思う。それができなければ、これ以上ワシの写 真の上達は望めない。それは即ちワシの旅の終わりを意味する。

旅を終わりにしないためにも、魂注いで来ますぜ!


2001.09.03 掲載