闘いのドリームランド

桜庭和志 vs ホイス・グレイシー
高田道場の「闘うおもちゃ箱」桜庭和志が、グレイシー柔術「最強の遺伝子」ホイス・グレイシーを倒した。

2000年5月1日(月)、東京ドームでのPRIDE GRANDPRIX 2000で行われたこの対戦は、1ラウンド15分を6ラウンド戦い終え、第7ラウンド開始直前「セコンドアウト」コール後、この日セコンドに付いていたホイスの兄でグレイシー一族の長兄ホリオン・グレイシーががタオルを投げ入れ、桜庭が劇的なTKOで勝利した。試合内容も最高で、間違いなく今年のベストバウトどころか、格闘界の歴史に残る名勝負だった。

入場時から桜庭はやってくれた。ホイスが恒例の、一族によるグレイシートレインで威風堂々と入場したのに対して、桜庭はおそらくセコンドの松井などであろう計3人で、スーパーストロングマシーンの覆面をかぶって登場、1つの花束を3人で受け取り場内を笑いの渦に、さらにこの一戦の見届け人であったアントニオ猪木をも戸惑わせ、結局猪木も3人全員と握手を交わす始末。マスクを脱ぐまでどれが桜庭なのか全くわからなかった。

そしてゴング、試合は第1Rから激しく動いた。桜庭がロープから上半身をリング外に出しながらもホイスの右腕を極めにかかり、テレビカメラにニッコリ微笑みかけるなどいきなり桜庭ワールド全開。終盤にはグラウンド地獄に引きずり込まれそうになりながら、ひざ十字を極めたがここでラウンド終了。実はこの時ホイスは左ひざを痛めたものと私は見る。

第2R、桜庭はコーナーに詰められるが、ホイスがさほど仕掛けてこないのをいいことにまたもや桜庭ワールドスタート。ホイスの道着のすそをめくり上げ裾で縛りつけようとしたり、道着を脱がそうとしたり、しまいには道着のズボンにまで手を掛け、ホイスのパンツを4万人の観衆に見せるなど大サービス。終盤それに怒ったわけではないと思うが、ホイスが道着を利用したフロントスリーパーを極めたところでゴング。

第3R、立ち姿勢で桜庭は自分の距離をつかむ。ローキックがホイスの左足に入り始める。ホイスはグランドに持ち込むべく背をマットに付けて細かいキックを出す。まさに猪木&アリ状態だ。しかし桜庭、お次はキラー・カーンも真っ青のモンゴリアンチョップを披露し会場は大喜び。しかしパフォーマンスではない、当たっている。桜庭はバーリトゥードでは思いもよらない技を次々と出してくれる。

第4R、やはり立ち姿勢では桜庭が有利、ローキックに加え左右のフックも当たってきた。たまらずグランドでのガードポジションでチャンスを窺うホイスに桜庭は応戦し再三パスガードを狙う。しかしこの体勢になるとホイスはものすごく強い。三角絞めを狙いつつ、桜庭の顔面に細かいパンチや平手打ちを当ててくる。序盤から桜庭はかなりこの攻撃を受けており、顔も腫れている。

第5R、 ホイスは得意のガードポジションから突破口を探している。合計4本の手足を全てバラバラに使い、ガードしながら上にいる桜庭にパンチやキックを当ててくる。改めてグレイシー柔術はすごい。しかしここでまたもや桜庭ワールド炸裂。今度はホイスの黒帯をつかむと頭を下に半宙吊り状態にして相手の股の間から右ストレートを見舞った。こんな技も初めて見る。

第6R、凄まじいホイスの精神力を見た。桜庭のキックが、そしてパンチが当たり倒れても、すぐさま立ち上がり前に前に出てくる。そこへ桜庭の強烈なローキック2発、ついにホイスの左足は破壊された。もう立っているのがやっとのはずのホイスはそれでも前に出る、桜庭はホイスの道着をつかんでのアッパーを見舞う。セコンドのグレイシー柔術アカデミー総帥である、父エリオ・グレイシーが手揉みをし、小さく首を振っている。セコンドのホリオンが白いタオルを握りしめ、エリオに何やら聞いている「お父さん、もういいでしょう」、エリオが答える「まだだめじゃ」。そして第6ラウンド終了のゴングは鳴った。

第7R開始直前、ホイスが立ち上がらない。ゴングを待たずに、ホリオンが白いタオルを投入。桜庭のTKO勝ちとなった歴史的瞬間であった。(2000.5.2)


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