闘いのドリームランド

小川直也 vs 橋本真也
新日本プロレスの「破壊王」橋本真也が「引退」をかけてUFO(世界格闘技連盟)の「暴走王」小川直也に挑戦したが返り討ちにされた。
2000年4月7日(金)、東京ドームで行われたこの対戦は、15分9秒、10カウントのノックアウトで小川が勝利した。

打撃と地の利で試合を優勢に進めたのは橋本だったが、STOとDDTの相打ち後からは脚に来ていた。そして6発目のSTO(スペース・トルネード・オガワ)=変形大外刈りで橋本は失神した。
ただし小川も橋本のエルボーで右肩を一度脱臼し、腕ひしぎ逆十字を掛けられたとき肩が入るという呆れるほどの運の良さ。最後はもうグロッキー気味で「とんねるず」との「寿司ジャン」対決の時とは比較にならないほどの厳しい表情であった。勝負は本当に紙一重ですばらしい試合だった。

小川は現在32歳。史上最年少で柔道世界一になり相当期待されたが、結局オリンピックでは金メダルがとれなかった。しかし柔道にとどまらない格闘技に対する志の高さを見込まれ、明大の柔道の大先輩でもある「世界の荒鷲」坂口征二会長(当時の新日本プロレス社長、現在社長は藤波辰爾である)にすすめられ、格闘技界に足を踏み入れた。即アントニオ猪木・佐山 聡(初代タイガーマスク)のもとで修行を開始し、闘魂イズムを叩き込まれた。そして1997年4月に新日本プロレスマットでフリーとしてデビュー。現在は猪木の設立したUFOに所属。NWA世界ヘビー級(歴代王者リックフレアー、ハーリーレイス、ジャイアント馬場など)王座をアルティメット王ダン・スバーンから奪取している。

橋本は現在34歳。橋本も柔道出身である。1984年9月デビュー以来、海外遠征を経て、蝶野正洋、武藤敬司(グレート・ムタ)とともに闘魂三銃士として活躍。後にIWGPシングル、そしてタッグ王座を獲得、G1クライマックスも制覇しタイトルを総ナメにした。当初から異種格闘技にも積極的に取り組んでおり、これまで新日本プロレスをリードし、トップの地位を築き上げ、自ら闘魂伝承を掲げていた。

そもそもこの2人、1997年4月、小川が柔道着姿で格闘技界にデビューした時の対戦相手が、当時IWGPヘビー級王者の橋本であった。打撃に対する弱さを露呈する小川に橋本が油断し、一瞬のスキにスリーパーで締め落とされ小川が勝利した。その後IWGPのベルトをかけて行われたリターンマッチでは、小川の側頭部に橋本のキックが炸裂し小川が舌を出して失神。猪木がホーガンにやられたときのまねをしていたわけではないが、橋本がリベンジした。

それから小川は柔道着と別れを告げ、オープンフィンガーグローブ、黒のショートタイツ、レガースを着用し、総合格闘技への道を歩み出す。本格的にUFOに参加、改めて総帥猪木に弟子入りする。素質だけでもすばらしいのに、こんなすごい人たちにみっちり鍛えられれば強くなるのは当たり前。一方の橋本は、nWoなどとの抗争中も新日本隊を「北斗晶」の夫である「佐々木健介」に任せ、自分は小川ばかり追いかけ少し浮いた存在になっていった。それでも新日本プロレスでは東京ドーム大会で度々タッグを含む「橋本 vs 小川」をマッチメイク。結果、過去シングルでは、新日のレフェリングのまずさによる無効試合と、小川のKO勝ちで、通算小川の2勝1敗1無効試合で、もう決着はついたはずだった。

これでやめておけばよかったのだが、何故か橋本は小川に固執した。今年に入って小川と同じUFOの「狂犬」村上一成のテロ行為もあって感情的になったかのように見えたが、実はそうではない。橋本のトップレスラーとしての地位は、小川の出現によりこの3年間壊されっぱなしだったのだ。「小川とは基本的に畑が違うのだから。橋本真也はトップレスラーであることに違いはないじゃないか。」の声もあったが、最強団体である事を疑わない新日ファンと橋本のプライドはこれを許さなかった。意地でも借りを返さなければならなかったのである。一応の決着もつき、両者の関係としては新たな展開を期待していたところに「引退をかけてお前とやるぞ」と言われたら、小川、UFOサイドとしても無視するわけにはいかなかったということだろう。

そして今回最終決戦は終わった。「俺は男だから」と、公約通り橋本はリングを去る覚悟だが、周囲は勝手だ。猪木総帥は「勝敗はどちらでもいい。引退してもらいたくない。」と、坂口会長は「引退なんかする必要ない。引退すると言ってきても引き留める。」 と、さらに藤波社長は「オレが橋本を引退させたら、ファンはどう思う。」そして試合を解説していた山崎一夫は「もっとこのガードが見たい。」では橋本は今後どの面下げてリングに上がればいいのだ。個人的には本当に潔く、そしてカッコ良く引退させてやりたいと思う。それでも周りが引退を許さない、というのならどうしろというのだ。UFOに移籍しろとでもいうのか。それではあまりにも愚論であろう。

万が一、橋本が引退しないとしたら、しばらくリングに上がってはいけない。雑誌やスポーツ紙にも載ってはいけない。まず姿を消さなければならない。どん底を這い蹲っている姿は決して人に見せてはならないからだ。そして時間はかかっても良い。できればフリーとしてよそのリングから再出発してほしい。そして小川は、もうプロレス団体のリングでプロレスラーと闘うのはやめてほしい。グレイシー一族、マークケアーなど、格闘家小川直也として倒さねばならない敵はバーリトゥード系のリングにいるのだから。(2000.4.10)


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