いまだ村には色々な儀式が伝わってたりするのでしょうか、伝統的な場所には住んでいないので、その辺りは横溝っぽい舞台の感じなものがあるのかなぁと想像するしかないんです。僕の場合はこういう妄想になりました。

 

 

 

 学校倉庫の奥の方にある十字架を見つけてしまった。聞けば村に伝わる伝統行事に使用されたものであるという。「身近な所の伝統に興味を持つ事が歴史や社会の勉強になる」と我が歴史社会研究部の顧問の朔元先生の弁。

 う〜ん、そういわれると確かにそうかもしれない、朔元先生ってもっともな事を興味深気に言ってくれるからそんな気もしてくる。で、先生はその行事の事知ってるんですかぁ?

「そりゃぁ知ってるけど、僕に聞いたんじゃ勉強にも何にもならんだろう。その辺は色々と君が考えてみるといいんじゃないのかな」

 てなことでやってきました教務主任の望山先生の所。学校じゃ一番在籍年数長いし、たまに組合とかでいなくなっちゃう先生の代わりに授業があったりする時、授業内容すっ飛ばして蘊蓄や昔話なんかを語ってくれるから結構面 白い。脱線多いけどいい先生だ。

「おぉ、どうした鶴見、なんか聞きたい事があるんだって…ん、何々?あの十字架の事かぁ」

 良かった!知ってるみたい。「ここじゃ何だから十字架の前に行こうか」と望山先生。は〜いと喜んでついていく私。そして倉庫の十字架の前。

「お前も歴史社会研究部だからこの村の特殊な歴史も知ってるだろう?異教徒の迫害の歴史だ」

 うん、確かに知ってる。その昔江戸時代、隠れ異教徒の村がこの辺りにあって相当迫害と弾圧があってそれはもう酷いものだったらしい。町の資料館にもずいぶんと文献が残ってて、1コーナー出来る位 。

  「この学校は異教徒の最後の砦があった所でな、砦が落ちてそれはもう凄い事になって異教徒の一党の姫がさらし者になった場所なんだ。十字架にかけられてなぁ」

 ゴクリと息をのむ。その十字架…そんな訳無いよね。

「その後この場所にその姫や一党の亡霊が出るという話になって誰も近寄らなくなってしまったんだ。そして維新も過ぎて明治になって学校が出来てだね、それがここ。で、昔の悲劇を語り継ぐ事とお姫様を鎮めるため、十字架を作って儀式を毎年ここで始めたんだ。十字架に姫役の女性を磔にして一晩校庭に、そこで姫の亡霊と語り合うってんだが、戦中には姫のなり手も無くって儀式も廃れてここに十字架がしまわれっぱなしってことなんだなぁ」

 へぇ〜そんな儀式あったんだぁ、俄然興味がわいてきたぞ。どんな感じだったんだろう亡霊と語り合うって。でも一晩中十字架に磔にされるって結構大変な役柄だよなぁ〜あたしなら…どうだろうか。

「そうだ、今度一回どんな感じか試してみるか…体験学習って感じで、いやいや、女生徒を磔なんて事させられないなぁ、ハッハッハ」

 いつの間にか後ろに朔元先生がいる。私としてはう〜ん…一回ぐらいならいいかなぁなんて思ったりも。でも磔だしなぁ。

「儀式が廃れるって事は何か理由があるはずなんだ。その意味がもしかしたら分かるかもしれないぞ、どうだ鶴見、一回試してみるか?望山先生はこの村の旧家の出身だからよく知ってるんでしょう?協力してもらえませんか」
「私は一向にかまわないが、鶴見はどうなんだ?」

 どうしよう、なんか話が進んじゃってる。でも興味あるしなぁ〜もしかしたらそのお姫様の亡霊にも会えるかもしれないし、儀式の意味も解るかもしれない。え〜い、いいや!オッケーしちゃえ!

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