「もう10月も過ぎただろう?衣替えはの時期は過ぎているんだからしっかりと長袖にしてこなくちゃだめじゃないか」
 
 10月入ったというのにまだ台風がやってきた。フェーン現象のおかげで気温は上昇し真夏日に近い温度になるという予報だ。 彼女は予報を見て何の気なしに当然の様に汗をかきそうなので半袖で登校した。

「いいや、ポロシャツで行っちゃえ!」

 確かに日中は真夏日に近い気温になり、衣替えも終わったせいか長袖で来ている人間の方が多かったが半袖の子も何人かいた。 そんなかんなで下校時、その時になって担任である現国教師は彼女を呼び止めた。これはその教師の言葉だった。

「でも、先生。暑いからしょうがないじゃないですかぁ、私暑いの苦手なんですよぉ」
「何を言ってるんだ、校則だよ校則。決まりがあるんだぞ」
「でももう下校時間ですから、明日はしっかり長袖にしてきまぁ〜す」

 次の日、まだ暑さは続き、彼女はまた当然の様に半袖だ。昨日担任に行った言葉等とうに忘れている。またもや下校時、今度は担任に指導室に呼び出された。
「先生、なんですかぁ〜指導室なんて」
「お前昨日俺が言った事全く忘れてるだろう?ちゃんと制服来てこいよ」
「だってぇ、今日も暑かったし」
「そうは言ったってなぁ、衣替えも終わってるんだからさ校則で決まって…」
「先生校則校則ってそんな事言うけど先生達だって半袖着てるじゃん!」
「教師はいいんだよ」
「それって差別!暑い物は暑いんだからイイじゃ…」

 彼女がその言葉は最後まで言い終わる前に突然担任は彼女の口を塞いだ。手には布切れ、クロロがしみ込ませてある。
「ううっ…」 と彼女は呻くがすぐに気を失い床に倒れ込んでしまう。担任の怪しい目が光った。

「ん………うんッ…」
 目を覚ました時、彼女は全身が全く動けなくなっていることに気付いた。完全に目がさめると椅子にガムテープで縛り付けられている自分がいた。
「ウ!ウウウんっ、ウムウウウ!!」
  叫び声をあげようにも声は出ない、ガムテープでグルグルと口の周りに巻き付けられている。 身動きの出来ない身体を懸命に動かしなんとかしようとするが、ぎっちりと張り付いたテープはちょっとの事では剥がれそうにない。

「グゥウッ!ウグゥッ!」
「気が付いたかい?」
 目を横にそらすと担任が脚を組み、腕を組みながら座っている。彼女をジロジロ見ながら。
「ここは真の生徒指導室と呼ばれる、教育には神聖な場所だ、ここでこれから君の校則に対する考え方を矯正しよう」
 おもむろに立ち上がる教師。彼女はビクっと身体を震わせ教師の顔を覗き込むが、すぐに恐くなって下を向き涙ぐむ。いつもの顔とは違う、半ば恍惚とした表情をした彼女の担任がそこにいた。 そんな様子を観察しながら言葉を続ける。

「いいかい、生徒は校則には従うものなんだ、解るかい?『校則校則ってそんなこと…』と君は言ったけど君はこの学校の生徒だろう、決まりには従ってもらうよ」

「夏場の間はそのシャツも大目に見ていたけど、僕としてはしっかりと半袖の制服を着て欲しかったんだ、しっかりと定められた服装をね。今年は特に暑かったからね、職員会議でも問題にならないし忸怩たる思いをしてきたんだけどもうそんな時期は過ぎた、衣替えは終わってるんだぞ」

「校則を守れない、守りたくないならしょうがない。『こうそく』のもう1つの意味について教えてあげよう。校則と言うのはまさに生徒を『拘束』するものなんだ。口で言っても聴かない君にはこうするしかない、まさに『こ・う・そ・く』だ。君の家には指導で少し遅くなると連絡を入れておいたから、君にはしっかりと指導を受けてもらう」
「う…ウゥゥ…」
 小さい嗚咽がガムテープに塞がれた口から漏れる。 彼女の顔つきがさらに暗くなり、そして涙が流れた。

「しかしイイ言葉だ『こ・う・そ・く』とは、フフフ。洒落ではないが校則と拘束、まさに似た様な意味あいの言葉…同じ音で同じ様な意味なのに漢字は違う。何と素晴らしい!これはすばらしい授業だ!!君にしたって身体で言葉を体感出来るなんて素晴らしい体験だと思うだろう!うん!」
  ひとり恍惚と舞い上がる教師の姿に彼女は恐怖感を覚える。さらに嗚咽の声が大きくなり、真の生徒指導室に響いた。

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