「まったく、この不況下で良くあんな事が言えるよなぁ、てめぇの親はよ。」
少女の親は両親共に環境活動家。「公共事業見直しと森林環境整備」を旗印に現在、村のダム建設差し止め訴訟を起こした所だ。 少女の授業参観日には両親共にやって来て、授業後の懇親会でも熱弁を振るう。
面積は広くても地域は狭い。工事関係者の親もいる訳で、その男は苦虫を噛み潰した様な顔でその光景を見ていた。ダム建設に誇りを持っていた。その事を真っ向から否定される様な言動が面 白いはずがない。

「それにおめぇさんのあの作文はなんだ、こんな小さな村なんだぜ、環境環境叫ぶのはかまわんけど、それで飯が食っていける訳じゃねえんだ。まぁ、ガキの頃からあんな親に洗脳されてりゃこうもなっちまうか?」
問題の作文が教室で読まれた時、彼の怒りは頂点に達し、男は考えた「そこまで言うならおめぇがどれだけその事に誇りを持っているか確かめてやる。」

「どんな気分だい?俺達が子供の頃はこうやってよく縛り付けられたもんだ、罰って言う名目でなぁ。」
男は
彼女に向ってそう話し掛ける。裁判で工事を差し止められ、使われなくなった資材倉庫に彼女は監禁された。縄で手足を厳しく縛り上げられ猿轡までされている。その上、これでもかと授業参観の鬱憤をはらすかの様に彼女を柱にぎっちぎちに縛り付けられてしまっていた。

「なんだ、その自分は間違ってないって目は。そんな目をしてる限りこっからはださねぇぞ。工事関係の親を持つ子供がここには多いんだ。主義主張を振りかざすだけじゃ人間関係やっていけねぇんだよ。 おめぇはここで自分の至らない考えをしっかり反省しろ。」
一方的な理由を言い放ち、男は彼女をそのままにして外へ行ってしまった。

「ウ...ムグゥゥ!」
猿轡から漏れる呻き声、逃れようと身体を揺するたびに出る縄ずれの音が倉庫の中に空しく響く。 いくら身体を振っても解けず、もがけばもがくほど身体に食込んでくる縄。誇りを傷つけられた男の呪が縄に宿っているかのようだ。
「うっ、ううんっ...」
涙がこぼれそうになった。両親、自分のしている事はいったいなんだろう? 正しいと思っていた事が怨みの対象になるとは考えもよらず、その怨みで惨めな格好にされているのである。こんな極限状態では思考もままならない。
明かり取り窓から夕日が差し込む。彼女の苦悶と空しい抵抗も夕日同様、徐々に弱々しくなっていった。