学校検尿の手引き

 


目  次

X 学校検尿のすすめ方

1.採尿方法

2.試験紙法

3.検診システム

1)一次検尿
2)二次検尿
3)三次検尿並びに精密検査
4)暫定診断名

Y 糖尿病検診のすすめ方

Z 専門医へ紹介する必要事項

[ 専門医による精密診断の把握と管理指導

\ 予防接種について

] 附記


V.学校検尿のすすめ方

1.採尿方法

 検尿で最も大事なことは採尿方法である。化学的、細菌学的にも清潔な容器に出来るだけ汚染しないように採尿することが大切である。容器は清潔なものならなんでもよいのではなく、家庭より学絞、学校より検査機関まで運ぶので汚染しないものが必要である。そのためにはなるべく検尿の目的にそった不透明の袋に入った市販のポリ容器を使用すべきである。

1)早朝床(起床第一尿)

 一般的検尿は早朝尿が用いられる。採尿前日は過激な運動、クラブ活動、過食およびビタミンC剤の内服はさける。(早朝尿内に前夜の運動、食事などの影響により尿の成分の変化をきたす。)
  就寝前排尿させておく。そして起床直後(5分以内)の尿を採取する。その時、年長児には精液や膣分泌物などの混入を避けるために、尿道尿を排除させた後の排尿(中間尿)を採取させるよう児童・生徒・保護者によく徹底指導すべきである。女子の児童・生徒の場合、生理中または生理前後3〜4日のものは採尿を中止し、生理の影響のない日のものを検査する必要がある。また、プライバシーを考慮して学校に尿を持ってくる容器は不透明の袋にいれて使用してほしい。

2)学校尿

 検尿は早朝尿を環則としているが忘れて採尿しなかったり、採尿しても学校に持参しなかったりして尿の収集の日に検査ができないときには、学校で採尿した随意尿を用いるが、採尿時刻によっては運動、食事などの影響がかなり加わってくる。学校にて採尿した随意尿を用いた場合、新鮮尿としての検査ができて好都合なことも少なくない。午前中の授業時間の始まる前に排尿させ、40〜45分間椅子にかけさせ学習後に採尿し、これを学校尿として検査する。尿量を増加させるために約100mlの水を予め飲ませておく。この学校尿によって登校中の運動、朝食の影響を軽くし、椅子にかけゆっくりさせることで前弯位がとけ、あるいは軽くなり、運動性や体位性蛋白尿の多くが除外できる利点がある。
 また、県立高校の定時制では勤労生徒であるため、早朝尿では時がたちすぎ正確な結果が得られないので新鮮な学校尿で検査すべきである。
 以上、早朝尿、学校尿について簡単に記述したが、学校検尿は原則的には早朝尿で検査すべきである。しかし、児童・生徒の未受診者対策には積極的に学校尿を用いて未受診者を極力減らすよう努力すべきである。また、提出容器の尿が早朝尿か学校尿かをかならずラベルに明記していただきたい。
 学校に収集した採取尿は、採尿から検査までの時間が長かったり、直射日光や室温れ高い程、尿の変質をきたしやすいため冷暗所にて保存し、すくなくとも5時間以内に検査が完了するように、予め検査実施機関とよく連絡しながら、収集時間を決めるべきである。

2.試験紙法

 学校集団検尿はスクリーニングテストであるため試験紙を用いて検査する。
 現在市販されているDIp&Read式の尿検査試験紙は数十種類もある。しかも、各社各試験紙ごとにセールスポイントがあり、同一の試験紙はないと考えられる。試験紙そのものの試験組成や製造技術が変わらなくても、試験瓶に貼付されている各色調表の印刷技術(色あい)によっても判定が微妙に影響するといわれている。
 そこで、試験紙法の注意として次のようなものが考えられる。

@ 試験紙が正しく保存され、比較表のきれいなこと。特に、その試験紙の精度並びに使用時の注意事項を熟知して使用し、判定する。

A 試験紙の感度や判定の表示は各メーカーによって異なっており、その精度が問題である。蛋白や糖の部分は製造後の使用期限内は未開封であれば精度は保たれているが、潜血は製造元のいう使用期限内であっても、製造後1年以上経ったものは未開封でも劣化している。

B 潜血試験紙は使用の都度、直ちに密封し冷暗所において2週間位は十分な精度を保っているが、開封したら漸次劣化するためなるべく2週間以内に使用すべきである。

C アルカリ尿(PH8以上)やPH指示薬と反応する物質があれば蛋白は偽陽性を示す。また、アルブミン以外の蛋白は反応しにくく、べンスジョンズ蛋白では偽陰性を呈する。
 PH8を越えていれば、蛋白疑陽性(±)以上はズルホサリチル酸法によって確認する必要がある。

D アスコルビン酸(ビタミンC)は強力な還元力を持つため、潜血反応に用いられる色素原と結合し、還元アスコルビン酸となり潜血反応は偽陰性となり、健康人の5〜10%の人が尿中に排泄されるので注意を要するといわれている。

E 集団検尿は多人数の判定を行うために、同一条件下で判定することが大切である。疲労度が判定を誤らせることがあるので、判定者には適当な休み時間を与える必要がある。

F 検査時の室内の照度は自然光、昼光色蛍光灯にて1,000ルクス以上の照度が望ましい。

G 検体の中に必ず、蛋白、糖、潜血の値がわかっている対照尿を入れて実施する。このような配慮が正しい判定を行う上で必要である。

H 試験紙の判定と濃度表示の統−がとれていないために、一次・二次検尿から三次検尿、精密検査を行うときは、異なる試験紙を使用していることになるので、その判定にわずかながら差があることも考慮すべきである。

I 各検査機関で使用した試験紙の種類と判定基準は、必ず成績表に記載しておく必要がある。

J 試験紙の表示、判定については使用説明書に記載どおりの製品かどうかを常に検査者は検定し、その精度を確かめておくべきである。

3.検診システム

 腎臓検診は県内の小・中・高等学校の全学年全員を対象に行う。学校集団検診はあくまでスクリーニングテストであり、迅速に正確にしかも簡単であることが望ましく、この目的にかなうのは試験紙法である。
 検診システムは各医師会の委員会によって色々と検討されて検診システムを統一し、決定し、未受診者が出ないように学校を根気よく指導していただきたい。
 一次・二次検尿の実施機関は原則として、登録衛生検査所で行い、その検査結果は必ず学校医、委員会によって検尿異常者として判定され、三次検尿並びに精密検査は学校医、主治医、専門医にて実施すべきである。
 尿糖の判定については「Y糖尿病検診のすすめ方」(P13より)をご参照いただきたい。

1)一次検尿

 早朝尿、学校尿を蛋白、糖、潜血、PHの4項目の試験紙法によって実施する。
 学校における集団検尿の目的に沿うためにも疾病の見逃しを避けねばならない。そのためには、一次検尿で蛋白、潜血のいずれかが疑陽性(±)以上のものは要ニ次検尿者とする。

2)二次検尿

 要ニ次検尿者、経過観察者を含む追跡中のもの(一次検尿で所見の有無にかかわらず実施)、一次検尿の未受診者を対象として一次検尿と同様に試験紙法によって蛋白、糖、潜血、PHの4項目を検査する。
 試験紙法による測定は誤差が生じやすいので、蛋白の疑陽性(±)以上の陽性者にはズルホサリチル酸法を併用し、陽性(+)以上のものはズルホサリチル酸法を省略してもよい。一次・二次検尿の潜血反応の疑陽性(±)以上のもの又は、潜血、蛋白のどちらか一方が疑陽性以上のものは必ず沈渣の顕微鏡検査を実施していただきたい。

@ ズルホサリチル酸法

 尿蛋白検査法は試験紙法のほか種々の方法が定性定量反応として行われているが、ズルホサリチル酸法は極めて鋭敏(感度1〜5mg/dl)であるため、本法で陰性(−)の場合には確実に蛋白はないとしてよい。

く方法>

 試験管2本に採取尿を夫々約3mlずつ入れ5%酢酸を数滴加え弱酸性とし、一方に20%ズルホサリチル酸を7〜8滴加え、他の対照尿と共に黒色の背景で白濁を生じるかを見て、その白濁の程度により陽性度を判定する。

<判定基準>

(−): 混濁のないもの
(±): 黒色背景で混濁をかろうじて認めるもの (蛋白量0.02%以下)
(+): 黒色背景なくて混濁をかろうじて認めるもの (蛋白量0.02〜0.05%)
(++): 混濁明療なるも細片状沈殿なきもの (蛋白量0.1%内外)
(+++): 細片状沈殿を認めるもの (蛋白量0.2%内外)
(++++): 塊状沈殿を認めるもの (蛋白量0.5%以上)

<注意事項>

 本法では蛋白以外にムチン、酢酸体、樹脂酸、アルブモーゼ、尿酸などによって陽性を呈する。ムチン、酢酸体、樹脂酸は酢酸を加えたのみで白濁を呈するから対照試験管に酢酸を滴下して検査すればよい。また、掛脂酸による混濁はアルコールを加えれば溶け、アルブモーゼ、尿酸による混濁は加熱すれば溶ける。

A 尿沈渣顕鏡法

 約10mlの新鮮尿をスピッツグラスにとり、1.500回転/1分間を5分間回転させ遠沈します。そして、上清を速やかに捨てるとスピッツグラスの底に残った尿は大体0.2m且となり、これをよく混和し、その一滴を強拡大400倍で鏡検する。
 沈渣の鏡検の判定は、検査者が異なると判定がまちまちになる可能性があり、熟練者によって20視野以上を鏡検し、次の基準のうち一つでも該当すれば異常とする。

<沈渣判定基準>
赤血球:5個以上/1視野
白血球:5個以上/1視野
円 柱:1個以上/全視野(硝子様円柱は病的とはいえない)

<注意事項>
(1)清潔な硝子器具を使用すること。
(2)回転があまり早いと円柱が破壊されることがある。
(3)尿が古くなると有機成分が分解消失するので、なるべく早い新鮮尿で実施すること。
(4)沈渣に尿酸塩、リン酸塩、炭酸塩等の沈殿が多いときには、血球、円柱等の鏡検が著しく妨げられるため、尿酸塩ならば尿を加温し、リン酸塩、炭酸塩ならば酢酸を加え溶解した後に再度遠沈して鏡検する。
(5)採尿より検査までの時間は気温が高いときは細菌の増殖を来たし、気温が低いときは塩類析出があり鏡検を不能にしたり、判定を誤らせるので採取尿の温度が20℃以上のとき、PHがアルカリ性に傾いているときや比重が1.010以下の尿では、判定に充分な配慮が必要である。

3)三次検尿並びに精密検査(健康保険証使用)

 一次・二次検尿の異常者に学校医、主治医による三次検尿並びに精密検査を実施する。参考資料の北九州、福岡、宗像、甘木朝倉方式類似の3部複写による受診票、成績表を作製して、なるべく活用していただきたい。なお、成績表の中に肥満度(%)を入れることが望ましい。
 校医、主治医による検診は一次・二次検尿に使用した試験紙との問題、3日間の検尿、または、血液化学検査なしで暫定診断されることが多くあり、その結果、検診内容にバラツキをきたしているので、必ず次頁の検査項目を実施されて、腎臓病の疑問があれば専門医による精密検査を勧めていただきたい。

【三次検尿並びに精密検査の種目】

(1)既往歴、尿所見発見年度、家族歴、身長、体重、聴打診、血圧測定

(2)検 尿

 早朝尿と昼間尿を試験紙法にて蛋白、糖、潜血、PH、沈渣検鏡を必ず各尿毎に2〜3日の間隔で3日間実施する。蛋白疑陽性者(±)は、ズルホサリチル酸法を、糖の陽性者には血糖を検査する。
○体位性蛋白尿
 学校検尿にて蛋白尿のみの陽性率が高く認められるものの大部分は体位性蛋白尿である。体位性蛋白尿は生理現象である場合が多く、一定時間の起立位・前弯負荷、角度、時間によって蛋白尿の発現の有無、強弱がみられる。

[体位性蛋白尿のテスト方法]
  前夜の食事と運動の影響のない早朝尿や2〜3時間安静臥位した後の尿をとり、図のように脊椎を15°〜20°前弯させた姿勢を5〜10分間とらせて採尿し、それぞれの尿について蛋白を検査する。

○前弯位のとらせ方
・足の位置:膝関節を伸ばし、ほぼ肩幅くらいにして両足をひろげる。
・第2腰椎突起部にあてた棒を地面と平行にし、両腕でかかえる。
   (棒のないときは自分の手で腰をおさえる)
・角度決定法:下肢軸の延長線と躯幹軸の延長線のなす角をもって表す。
・棒をかかえたときの手の位置は、手掌部が前腸骨突起部にくるようにする。

(3)血液生化学検査

  総蛋白、尿素窒素、クレアチニン、血清補体成分C3、ALSO、総コレステロール、血沈の7項目を必要とするが、総蛋白、尿素窒素、クレアチニン、血清補体成分C3の4項目は必須項目なので、出来るだけ実施する。

(4)その他、腎超音波検査、尿細菌培養、腎機能検査、X線検査、腎生検などは症例により随意に実施すること。

【精密検査判定基準】

精密検査では少なくとも3回の検尿を実施し、判定は下記のように行うこと。
判定の仕方
(1)蛋白尿及び潜血の判定は、次のような組み合わせを判定の目安とする。
  (都合3回検尿の結果)

1回目 2回目 3回目 判定
(−) (−) (−) ・・・・・・ 異常なし
(−) (−) (±) ・・・・・・ 異常なし
(−) (−) (+) ・・・・・・ 異常なし
(±) (±) (±) ・・・・・・ 要注意
(−) (±) (±) ・・・・・・ 要注意
(−) (+) (±) ・・・・・・ 要注意
(−) (++) (−) ・・・・・・ 異 常
または、それ以上
(−) (+) (+) ・・・・・・ 異 常
(+) (+) (+) ・・・・・・ 異 常

 その他(+)〜(+++)以上の組み合わせは異常とする。ただし、初回検尿で強陽性(+++)の場合は、1回で異常としても構わない。
 なお、蛋白、潜血の両方とも「要注意」の場合は「異常」として判定する。

(2)沈渣での赤血球・白血球の数が五ヶ/400]以上が、
     3回ともない湯合  異常なし
     1回の時       要注意
     2回以上の時    異 常  として判定する。

(3)円柱は存在するだけで意味があるので、円柱の種類を問わず、
     全視野にない場合(−)  異常なし
       〃  1〜9個(±)   要注意
       〃  10個以上(+) 異 常  として判定する。

4)暫定診断名

 三次検尿(集団精密検査)と、一次・二次検尿の異常者を学校医、主治医による精密検査によって早期に診断決定し、生活管理指導(プールなど)を必要とすることがあるので、下記の診断基準によって暫定診断(そのまま確定診断となることもある)を統一すること。
(1)体位性蛋白尿症候群
(2)血尿症候群‥ ‥・‥血尿以外に症状、検査に異常所見のない場合
              (1年以内のもの)
(3)蛋白尿症候群‥・・‥蛋白尿以外に症状、検査に異常所見のない場合
              (1年以内のもの)            ’
(4)蛋白尿、血尿症候群‥・蛋白尿、血尿のみで症状、検査に異常所見のない場合
              (1年以内のもの)
(5)急性腎炎症候群‥ ‥・蛋白尿、血尿に浮腫、高血圧などの症状、異常検査所見
              (血清生化学検査、免疫学的検査、腎機能検査)を伴い、急性発症をみている場合
(6)慢性腎炎症候群・・‥・基礎疾患がなく蛋白尿、血尿などが1年以上持続している場合(持続性腎炎)
(7)紫斑病性腎炎
(8)ネフローゼ症候群
(9)尿路感染症
(10)腎不全
(11)糖尿病
(12)その他


Y 糖尿病検診のすすめ方

1.はじめに

 糖尿病は基本的に血液中のブドウ糖(血糖)値が高くなる病気である。そのため、尿に糖が出るのは血糖値が一定以上に高いことを意味する。学校検尿では食後尿ではなく早朝尿で判定するため、尿糖陽性の場合は、血糖値がかなり高くなっていることが推測される。尿糖陽性者がすべて糖尿病というわけではないが、糖尿病のこどもに対する治療・生活指導の実施のためには、尿糖陽性者の早期検査・診断が必要である。

2.検診システム(図1)

1)尿検査および検尿テープ規格
 早朝尿で尿糖を検査する。尿糖は試験紙を用いて検査する。できれば検尿試験紙は尿糖100mg/dlを(±)、250mg/dlを(+)と表示するものを使用する。

2)現在糖尿病の治療・管理中の場合
 学校で次頁3.3)の結果報告の書類を患児に渡し、主治医に結果を記載してもらうように説明する。主治医は次頁3.1)を参照のうえ、現在の状態を記載し報告する。また、以前の検査で次頁3.2)確定診断のd)糖尿病境界型(耐糖能異常)と診断されている人は、主治医の判断で耐糖能精密検査を行う。

3)尿糖陽性基準
   一次・二次とも(±=100mg/dl)、または一次・二次いずれかで(+=250mg/dl)以上の場合を尿糖陽性者とし、常用糖負荷試験(経口ブドウ糖負荷試験:トレーランG 1.75g/体重、最大75g、0分、60分、120分に血糖・尿糖測定)を実施し、4)の暫定診断を行う。なお、空腹時血糖が極端に高い人の場合はこの限りではない。
注意点:一次・二次いずれかで一回だけ尿糖(±=100mg/dl)であった人にも、耐糖能異常を認める場合がある。可能なら常用糖負荷試験を行う。

4)暫定診断
   常用糖負荷試験で、a)正常、b)腎性糖尿、c)耐糖能異常(糖尿病を含む)、のいずれであるかを判定する。空腹時血糖110mg/dl未満、60分値160mg/dl未満、120分値120mg/dl未満、のすべてを満たしかつ尿糖陰性の場合を正常とし、血糖値は正常であるが、尿糖陽性の場合をb)腎性糖尿とする。c)耐糖能異常(糖尿病を含む)であれば、次に診断の確定を行う。

3.精密検査

1)診断確定のための検査
@ 耐糖能精密検査
 経口ブドウ糖負荷試験:常用糖負荷試験と同様にトレーランGを使用し、0分、30分、60分、120分、180分に血糖、尿糖、インスリンを測定する(インスリン測定は少なくとも0分、30分)。結果判定には、参考資料P29の厚生省小児糖尿病研究班資料を参照。
A 血液生化学・尿検査(空腹時検査)
 以下の血液生化学・尿検査を行う。
 血液生化学検査:総蛋白、尿素窒素、クレアチニン、総コレステロール、中性脂肪、AST(GOT).ALT(GPT)、ヘモグロビンAc尿検査:尿糖定量、尿蛋白定性、尿アセトン定性
B 超音波検査
 高学年の糖尿病で腎病変が認められることがある。また、肥満児に伴う脂肪肝も認められる。必要に応じて腎臓・肝臓の超音波検査を行うこと。
C 身体計測・血圧測定
 身体計測と血圧測定を行う。肥満に伴う耐糖能異常が危惧されるので、身長・体重より肥満度を計算する。

2)確定診断
 a)インスリン依存性糖尿病(IDDM)、b)インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)、c)糖尿病(病型不明)、d)糖尿病境界型(耐糖能異常)、e)腎性糖尿、f)その他、g)正常に分類する。診断がa)−d)の人には、専門医による治療を受けることを勧めること。

3)結果報告
 参考資料〔学校検尿精密検査成績表(P21〜25)、小児糖尿病管理指導表(P28)〕を参考として最終結果報告を行う。なお、成績表の中に肥満度(%)を入れることが望ましい。糖尿病の管理・治療中の場合は現在の臨床検査結果値を報告する。

治療、管理中の人は手引きを参考に結果を報告すること。

※一次検床で尿糖陰性者であるが、他の項目で二次検尿が必要な者または、一次検尿未提出者。


Z.専門医へ紹介する必要事項

 次に示す項目においては、腎臓の解剖学的異常、潜在性の腎炎、腎不全、糖尿病などが含まれている。また、このような場合には適正な生活管理や治療を要するので専門医へ紹介すること。
(1)肉眼的血尿がみられるとき。
(2)顕微鏡的血尿や(+)程度の蛋白尿が1年以上つづくとき。
(3)家族性または遺伝性腎疾患が疑われるとき。

 次に示す項目がみられるときは出来るだけ早い紹介が必要である。
(1)蛋白尿や血尿に蛋白尿が複合するとき。
  (++)以上の蛋白尿がみられるとき。
(2)耐糖能異常(糖尿病を含む)がみられるとき。
(3)高血圧や腎障害が合併しているとき。
(4)低蛋白血症がみられるとき。
(5)2カ月以上の持続性低補体血症を示すとき。
(6)治療に抵抗する尿路感染症。


[.専門医による精密診断の把握と管理指導

1.腎臓疾患

 学校検尿によって初めて発見される腎疾患は無自覚・無症状のものが多く、本人の疾患に対する自覚だけでなく、学校・家庭の対応も不十分である。そして腎臓病の診断治療、指導管理区分の決定が大変遅くなるものもあり、疾患の種類も多く、その経過についても多様を呈するので、腎臓手帳の活用が望まれる。
 腎臓疾患の病態を熱知するためには、病名、検査結果、長期の経過観察所見をよく記録しておくべきである。そして、その所見に応じて専門医によって生活管理区分(腎臓病管理指導表)を明記してもらい、学校医、委員会がよく指導区分を把握して、本人、学校、家庭、主治医とのよいコミュニケーションをもって、学校、家庭が成長期にある児童・生徒に対しての過度の生活規制や寛大すぎる生活指導を行わないように指導することが肝要である。さらに旅行や他の疾患での医療機関に受診するときは、腎臓手帳を持参するよう指導し、活用すべきである。

2.糖尿病

 糖尿病は、食事・運動療法に加えて毎日のインスリン注射が必須てあるインスリン依存性糖尿病と、食事・運動療法だけで治療できるインスリン非依存性糖尿病(経口糖尿病剤やインスリンを使用する場合もあるが小児ではほとんど必要がない)に大別される。いずれの場合でも、小児期には、原則としてすべての学校行事への参加が可能である。管理指導には糖尿病管理指導表(P28)を活用する。運動は活発に行うよう指導する。学校給食は他のこどもと同じメニューで良いが、食事量が多すぎる時には残すことも必要である。給食のおかわりは勧められない。
 インスリン依存性糖尿病の場合、学校でインスリン注射を行う場合があるのでその配慮が必要である。また、食事をとらなかった時や激しい運動により、過度の血糖の低下(低血糖症:空腹感、倦怠感、眠気、嘔気、頭痛、冷や汗、ふるえ、顔面蒼白など)をきたすことがある。その時はただちに糖質(ペットシュガー、グルコースサプライ、ジュースなど)を与え(補食)、意識障害まで進行させないことが重要である。 患児は自分で低血糖を予防できるように教育をうけ、また補食用の糖質を所持しているが、万一に備えて保健室にはジュースなどを用意しておくのが望ましい。また、糖尿病力ードまたは手帳を常時所持するように指導する。


\.予防接種について

1.腎臓疾患

 昭和46年に日本小児腎臓病研究会の提案した禁忌項目は
(1)副腎皮質ホルモン剤あるいは免疫抑制剤投与中または中止後6カ月以内のもの
(2)急性および慢性腎不全
(3)腎疾患の急性増悪時、および症状固定後6カ月以内のもの
(4)その他医師が不適当と認めた場合
 となっている。
 学校検尿で発見される無症候性血尿、蛋白尿では(3)で問題になるが、入院治療を必要とする以外は大部分は接種可能である。
  ただし、日本小児腎臓病学会で見直しの予定である。

2.糖尿病

 糖尿病に関しては、充分な治療が行われていれば、禁忌の予防接種はない。


 

経口ブドウ糖負荷試験(厚生省小児糖尿病研究班の判定基準)

  血糖値 点数**
≧110  (≧110)
101〜109(101〜109)
≦100  (≦100)
1.0
0.5
0
60分 ≧170  (≧160)
161〜169(121〜129)
≦160  (≦150)
1.0
0.5
0
120分 ≧140  (≧140)
121〜139(121〜139)
≦120  (≦120)
2.0
1.0
0
180分 ≧120  (≧120)
111〜119(111〜119)
≦110  (≦110)
1.0
0.5
0

 静脈血漿または毛細管全血値、()内は静脈全血値
  ブドウ糖(トレーランG)負荷量1.75g/kg(最大75g)

** 点数 糖尿病型:≧3.5 境界型:3.0〜1.5 正常型:≦1.0
 (小児糖尿病の診断と経口ブドウ糖負荷試験の標準化
   日本小児科学会雑誌 83:1499〜1502、1979.)