http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t055/200908/511903.html

五十肩にヒアルロン酸注射

関節の動きをよりスムーズに

和田 紀子=日経メディカル

 中高年に見られる五十肩には通常、疼痛緩和治療が行われるが、拘縮が強く慢性化する例も多い。ヒアルロン酸を注射すると、関節可動域が回復し、痛みも改善する。


「ヒアルロン酸注射は位置を誤ると痛みがひどくなる。正しい位置に注入するにはコツがある」と話す斗南病院の福田公孝氏。

 肩関節周囲炎、いわゆる五十肩は明らかな外傷や誘因がなく、肩周囲組織の老化に伴って炎症を来し、痛みや運動制限を生じるコモンディジーズだ。

 痛みが発生した早期(急性期)の治療は、疼痛緩和が中心になる。具体的には、安静の上、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の外用や内服が一般的に行われている。なお、わが国では肩関節周囲炎についての公式なガイドラインはない。

 さらに夜間痛を伴い、日常生活の動作が制限される場合、斗南病院(札幌市中央区)スポーツ医療センター長の福田公孝氏は主に肩峰下滑液包にステロイドの注射を打つ。患者の腕を横に上げ、90度(肩の高さ)までいかない場合は、高度な拘縮(重症)と判断して肩甲上腕関節腔内に注射すると効果的だという。

 以上のような治療を行えば肩関節周囲炎は自然治癒していくとされているが、痛みや拘縮が強くて症状が長引いていたり、適切な治療を受けられず、治りにくくなっている例も少なくない。福田氏は「患者自身が『五十肩だから様子を見よう』として、来院時には慢性期になっていることが多いため、疼痛緩和に加え、関節可動域を増やしていくのが治療の目標になる」と話す。

 福田氏が多く施行しているのは、ヒアルロン酸(商品名アルツほか)の注射。疼痛緩和の効果はステロイドより弱いが、関節の動きをスムーズにする効果が高い。

 昨年には、海外で660人を対象に行われた無作為抽出ランダム化比較試験の結果が発表され、ヒアルロン酸注射が疼痛や夜間痛、可動域の改善に有効であることが明らかになった(J Bone Joint Surg Am 2008;90:970-9.)。

痛くない注射の方法は?
 ヒアルロン酸注射を行う上で重要なのは、注射による痛みをできるだけ少なくするよう正確に肩峰下滑液包に注入すること。まず、患者の肘を約90度に曲げて腹部に付けさせ、その状態で肩関節を後方に約30度反らしてもらう。患肢は、反対側の手で支える。医師の左手の人差し指を肩峰先端に、親指は上腕骨大結節部に置き、その間を消毒して、図9のポイントを踏まえつつ注射するよう福田氏は指導している。

図9 肩関節周囲炎に対するヒアルロン酸注射のポイント
(福田氏による)


(1)上腕骨頭の頂部が肩峰先端よりも前方に来るように肩を伸展位とし、肩を内旋・外旋して、骨頭が動くのを確認する。肩峰先端と上腕骨大結節を確認して、大結節と骨頭頂部の中間点を消毒する。

(2)垂直に注射針を刺し、針先にわずかな硬さを感じたら刺入を止める。

(3)左手で注射器の外筒を保持し、右手で内筒を押す。その際、右手で内筒へ圧をかけると同時に、左手の外筒を支える力を変えることによって、針先を浅く、あるいは深くすると液が入っていく。