あるお酒に関する質問・米だけの酒って?


質問 広告
「某清酒メーカーの広告に右のような物があった。
山田錦の純米酒と思われるがどうしてこんな価格で生産、販売できるのか。」
米だけの酒。
副資材一切使わず。
山田錦100%。
コウジ米の精米歩合57%
1.8L紙パック入り。価格1380円。
清酒関係者数人でこのクイズに挑戦。検察側と弁護側に分かれて討論した。

検事 「コマーシャルによればこの製品は純米酒であると強調しているようだが、世間の相場によれば¥2500〜¥3500が妥当であろう。ダンピング販売の疑いがある。」
弁護士 「コマーシャルのどこにも「純米酒」という言葉は使っていない。
米だけの酒で「副資材一切使わず」という条件を満たしつつ純米酒でない酒というのは造れるのか」
「造れる。だから違法ではない。」
「その根拠は?」
特定名称酒(吟醸酒、純米酒、本醸造酒)の満たすべき条件として検査を受けて3等以上に格付けされた米を使うという規定がある(*1)。だから
  ・検査を受けていない米を使った酒。
  ・検査不合格の米を使った酒。

この両者が該当する。
そういう米は清酒原料として流通しているのか。山田錦に関してそういう事例はあるのか。
相当量流通していると思われる。特に平成10年は長雨のため不良山田錦が大量に発生した模様である(*2)。価格は不良品に限って言えばかなり安価と思われる。
ではその低価格山田錦を使った場合、製品価格は大幅に下げられるか
米の価格を設定し、その他の条件を設定しなければ酒の価格は決められない。

このような討論の末、検事弁護士は協力して上記コマーシャルの価格で販売できる製品の製造方法を研究した。推論、酔論の結果は以下の通りである。

玄米価格は1俵15000円(一般米価格)と見積もる。(250円/kg)。(*3)
平均精米歩合は67%と見積もる。(掛米は70%精白)(*4)
白米1000kgから純アルコール取得量400リットル(液化仕込み法)(*5)
白米1000Kgから1.8リットル製品が1480本できる。(*6)
1.8リットルあたり玄米が1.0kg必要(250円)(*7)
1.8リットルの中身原価は357円(中身原価の70%が米代)(*8)
これに詰口費130円および税金250円を上乗せして937円。(*9)
さらに一般管理費を200円上乗せして937円。これが生産者価格。(*10)
小売価格との価格差は1380−937=443円(小売価格の32%)これが営業経費、小売りマージンとなる。

これならやっていけそう。ただしかなりの大量生産、大量販売の場合。

今年の山田錦事情

作付け、生育、天候などおおむね順調。生産量も例年並み。
購入側に変化が見られる。高価な山田錦を買っても製品が売れない。(採算割れのおそれ。)
去年の不良品(穂発芽米)(*11)を見て品質についての批判が高まっている。
これらの結果として山田錦争奪戦が冷めてきた。生産者側はもっと深刻で売れ残りを心配している。すそ物の値崩れが起き始めている。
主産地の播州による独占体制にヒビが入るのではないか。

後進地への対応

次第に品質面への配慮が浸透し、収穫至上主義の反省期にきたようだ。(*12)ライスセンターの大型サイロに誰の米でも一緒に入れるという方式を改め、収穫前の稲を見てABCクラスに格付けし、それぞれ別のサイロに収納するなど努力している。(*13)
このクラス分けが価格単価に影響するのは必至で従来の「玄米を見て品質評価する。」やり方に変わる物と期待している。

生産量予測

兵庫県(ほとんど播州)  35万俵
福岡県(糸島郡)   2万俵
徳島県(阿波郡)    7千俵
山口県(県内数ヶ所)    4千俵
三重県(伊賀群)    4千俵
大阪府(能勢町)    2千俵
佐賀県(塩田町)    1500俵
静岡県(遠州)    1500俵
1000俵未満の産地はほかに数ヶ所ある。ほとんどが酒屋による委託栽培である。(*14)
本当によい物は委託栽培から出てくる。

以下の注釈はこのページの作成者が講義に参加したときの覚え書きです。
あくまでも覚え書きですので内容に間違いがあるかもしれませんが、そのときは遠慮なく指摘してください。



*1
特上から3等まで5階級に分かれている。・・・・・戻る

*2
台風が二つ続けて近畿を縦断した年です。筆者の勤め先の工場(大阪府羽曳野市)でも屋根は剥がれるテント倉庫は吹き飛ぶでえらい目にあった。この年は山田錦の不良米が大量に出て処置に困ったそうで。それが今回の話のポイントですね。・・・・・戻る

*3
通常は一俵(60Kg)3万円だそうです。不合格米でも一般米価格というのは高いような気もするのですが。通常の半額と考えれば妥当か、、、・・・・・戻る

*4
麹米:掛米の比率を2:8と見積もった場合。計算すると
   1/{(0.2/0.57)+(0.8/0.7)} ≒ 0.669
掛け米はあまり精白していないと仮定。(広告に書いてないのはそんな理由でしょう)・・・・・戻る

*5

普通酒で360リットル。吟醸酒で280〜300リットル。液化仕込み法は粕歩合が少なく、アルコール収量が高い。いい米だと420リットルは取れる。少し低く見積もっているのはちょっと良くない米と仮定している。・・・・・戻る

*6
できた酒はアルコール15%と計算。・・・・・戻る

*7
これも計算してみると
   (1000/0.67)/1480 ≒ 1.008・・・・・戻る

*8
あくまでも仮定ですが大抵こんなとこだそうです。・・・・・戻る

*9
詰口費は紙パックだとこんなところ。税金に関しては正確、というか一律こうなっている。・・・・・戻る

*10
製造部門以外の経費。小さい蔵では300円は要るらしい。・・・・・戻る

*11
台風で倒れて水に浸かってしまったため。稲刈りを放棄した田もあった。・・・・・戻る


*12
品種改良ではみんな多収穫を目指してまずい米を作る。でもコシヒカリみたいに多肥料、多収穫に耐えるのがある。
山田錦というのは古い時代の米で肥料、水の不足している環境に強いのが特徴。昔は肥料のやり過ぎなんかなかった。だから多収穫を目指すと逆に背が伸びすぎて倒れてしまう。酒米は他にも雄町、亀の尾、強力と大抵古い米で背が高い。・・・・・戻る

*13
一部の農家から不平が出るけど仕方ないことでしょう。・・・・・戻る

*14
いい米を作ろうという人には酒米の委託栽培は悪い話じゃないそうです。
自信を持てる米を作った以上、客からの反応が欲しいところだが、農協のサイロにみんな一緒に入れられると苦労が報われない。では農家が自分で米を売るとなるとこれがやっかい。
一家庭で消費する米などはたかがしれている。各家庭に対して小分けして発送して集金して・・・これも大変な仕事。
ところが酒蔵相手だとトン単位で買ってくれて、集金も楽(蔵かついで逃げられませんから)。いい米はそれに値する価格で買ってくれる。・・・・・戻る

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