清濁あわせ飲むという話




清酒という言葉、あれは私、嫌いです。官僚臭いから。酒税法をめくってご覧下さい。清酒の定義、清酒製造免許、清酒に添加できる物品、清酒の税額、清酒酒造組合etc...。

日本酒といって貰いたいものです。
我国で独得の発達を遂げ、世界に通用する(かどうかしらんが)飲料となったわれらのお酒、庶民の心情に照らしても日本酒にきまっとる。

濁り酒というものがあるでしょう。醪(もろみ)をいい加減に漉したやつ、あれも勿論日本酒であります。濁ったものがどうして清酒でありましょうか。それでも清酒じゃ。清酒免許で造り、清酒の税金を払い、堂々と売っておる。無益な厭味を言うようですが、一旦法律に取り込まれた言葉は後の事情で意味に変化が起こりどんな珍妙滑稽が生じようと変更は許されない訳であります、法の重みですな。


濁った酒がなぜ清酒かというと、清酒の定義(酒税法)を見ればわかる。いわく、清酒とは「米、米麹、水を原料とし、発酵させてこしたもの」とあります。「こしたもの」、これが話のミソでして、酒袋へ入れて搾ろうがヤブタ式などの濾過圧搾機で処理しようが、ガーゼでこそうが法律に抵触しない。こした以上は清酒なのです。だから意図的に濁り酒を造りたければ醪をザルで漉せば濁った汁が垂れてきてこれも合法的清酒とござい。ザル法でありますな。


濁ったお酒もいける
醪というものは存外うまいものです。泡が落ちて地になったころ、アルコール12%くらい、甘味がある。それからどんどん辛くなる。これもいい。絶品というのは吟醸醪の末期であります。舌触りよし香りよし、それに著しく冷たい。う−ん、この醪は上出来である、など言いながら実は醪そのものを賞味したり……。まるでフルーツシャーベットですものね。


ところが現実は厳しい。この期待を一身に荷った醪を搾ってみると、がっかりすることしばしばであります。もうひとつ冴えませんな、醪は良かったのにねえ。搾りたてはまだよろしい。番茶も出花と申します。日数が重なるほどハタチ過ぎればタダの人、俗人の臭気がまつわる。
吟醸醪でこれですから並酒、駄酒となると悲劇です。醪はそれなりに旨いのに搾ると情ない。いっそ搾らず売りましょうか。搾らないと清酒ではない。ザルで漉せばよろしかろう。


あれはいつの頃でしたやら、蔵元でザル漉し酒を頂戴しましてそのまま旅館へ入りました。大きなコップへ三分目ほど濁り酒、砂糖を大サジ一杯、卸しショウガ一つまみ、それをお湯で満量にしてでき上がりです。いけるではないかとお姐さんにも一杯奨めましたところこれが好評。廊下を往来する姐さん達を呼び込んだものですから、さあヒーちゃんもフーちゃんもミッちゃんヨッちゃんも参入して大賑わい。私は忙がしいからと立ったままでぐーっと飲み乾して、そのコップを突き出して「もう一杯」という人あり、「カルピスみたい」、「砂糖を持ってこよう」、「ショウガを卸してこよう」と自主サービスで大繁昌いたしました。一升ビンは忽ち売り切れ、唖然としていたのは蔵元の旦那でありました。重ねて申しまするに濁り酒も旨いものです。



マッカリ研究余録

朝鮮半島にも濁り酒、ありますね。マッカリと申します。アルコールが低い。4〜5%とビール並み。ごく若い醪、もちろん発酵中、をそのまま飲むんです。清酒醪より汲水が多い、薄い醪で、その方が飲み易いんです。日韓友交協会の幹部の方と知り合いまして焼肉キムチで一献やってるうちに、日本でもマッカリを造って売りなさいといわれました。売る方はなんとかするから…。

とは言われても、この話、実行にはかなりの困難を伴ないそうです。清酒免許で合法的にマッカリを造り、出荷せねばなりません。アルコール5%などという醪を売れば、流通途中でどんどん発酵が進んでアルコールが増える。蔵元も小売店も税務署も慣れないことで大変困る。みんな困るならやめておこう。製品管理の方も難かしい。泡は吹き出す。密閉できない。日保ちしない。どんな客船に詰めてどう蓋をしてどう運ぶ?そもそもマッカリとは現地ではどのように飲まれているのでしょうか。見たことも飲んだこともわたくしありませんので。


まあこの焼肉です。肉やモツを焼いて食べ、チシャをばりばり食べ、とりあえず私共は焼酎のお湯割りをやっておりますな。焼酎をマッカリで置き換えます。お粥のようでもあり酒のようでもある。だから程々酔いが廻った頃にはお腹もしっかりします。日本人みたいにあとでお茶漬だのソバだの食べる必要がないんです。冬は暖め夏は冷たくして満腹すれば栄養バランスまことによろしいという民族酒なのです。冬の朝など、出勤途中でドンブリ一杯暖いマッカリを引っかけて朝飯代りにするファンもあります。大体わかりました。私も飲んでみたいものですがそのために韓国まで行くのも億劫だ。


そこでこの旦那と私は、我国で清酒製造免許を活用しながらお客様にマッカリに劣らない飲料を提供する方法を研究したのでありました。
第一の原料はもちろん清酒醪です。アルコール分18%くらいに達し、発酵のおさまったものをザル漉しして固形分の多い濁り酒を造り、ビン詰め出荷します。こういう商品はすでに流通しているから大成張りです。
第二番目に、酒造用の白米を使って甘酒を製造します。これを容器に詰め、熱殺菌して販売することも酒造場の設備や技術から考えて問題はありません。いよいよ試飲会です。コップ、ジョッキあるいはドンブリに濁り酒を三分目ほど入れ、甘酒を入れます。その量は好みによって加減して頂きます。そしたらお湯を満量に注ぎ、撹拝混合したらでき上りです。
乾杯!

夏には冷水で、あるいは炭酸水で割るとよろしい。おっと忘れるところでした。和風マッカリには卸しショウガとかユズやスタチの一片を加えることにしましょう。