ヤマウコギ  Eleutherococcus spinosus

ヤマウコギ(高槻市:2001.6.17)

ヤマウコギ (高槻市:2001.6.17)

ウコギ科* ウコギ属 【*APGⅢ:ウコギ科】

Eleutherococcus:eleuthero(分離した)+coccus(液果) spinosus:トゲの多い

燗をした「五加皮酒」という甘くて強い中国酒をのんだとき、おなかが芯から暖ま って、久しぶりに身体に力がもどった気がしました。唐辛子の利いたタイの料理は、 口には大変おいしいものの内臓には刺激が強過ぎ、タイへ入って1ケ月あまり の間、ずっと軟便がつづいていたのです。このお酒さえあればもう下痢なんか恐く ない、何としてもこのお酒を手にいれ、毎日飲みたいものだと思いました。ところが、それ以後タイではこのお酒に巡り会わず、やっと手に入れたのは 日本へかえってから1年ほど後、高島屋の大中国展ででした。

はじめ、五加皮酒というからには、きっと5種類の薬草が入っているのだろうと 思っていたのですが、じつは、五加とはウコギのことで、ウコというのは五加の 呉音からきているのだそうです。

ウコギといえば、25年ほど前、初めてウコギ(正確にはヤマウコギ)を 見たときのことを思い出します。 当時、交野市・私市の大阪市大植物園に勤務 していた私はよく獅子窟寺を訪れましたが、お寺のすぐ下に、 道とは思えぬ藪をさして「王の墓」への道しるべがありました。 あるとき決心して、とにかく行けるだけ行ってみようと薮の中に突っ込ん だのですが、ほんの数mも進まぬうちに道全体がするどいトゲをもった 高さ2mくらいの潅木で覆いつくされ、あまりの痛さに一歩も進めぬ状態 になりました。トゲの形、大きさからはじめはノイバラかと思いましたが、 5枚の小葉をもつ掌状複葉を短枝に束生させた姿がコシアブラやタカノツメを連想させ、 ウコギ科の樹木、多分ウコギそのものではないかと直感しました。

ふつうウコギといっているものにも何種類かあって、厳密にはヒメウコギとか ヤマウコギと区別され、自分が見たのがヤマウコギであることは図鑑を見直して 確かめましたが、樹形や成育環境が林縁や攪乱のおおい場所をこのむノイバラ などとある程度共通する性質を持つことをこのとき初めて知りました。ただ、生育環境との関係を もう少し確かめておきたいと思って、その後、よく似た環境を見るたびに気をつけていますが、 そのわりにこの植物を見かける機会がありません。 百樹会でも高安山へ行ったとき一度出会ったにすぎません。 もっとも、近畿の植物に詳しい梅原徹さんによれば、この植物は「どこかにかたまって生 えるというものではないが、非常に珍しいものでもない」そうですので、単に私との めぐり合わせが悪いだけかも知れません。今なお気になる植物のひとつです。

1993.6. 【補足的説明】 雌雄異株の落葉灌木。5枚の小葉のうち頂小葉が大きく、長さ3~7cm、 幅2~4cm、縁には荒い鋸歯があって両面無毛、裏面側脈の基部にうすい膜がある。 節ごとにバラに似た1cmほどの鋭いトゲがある。
 ヒメウコギやヤマウコギの根の皮を中国でいう五加皮にあて漢方薬として用いる。 中国の五加皮は五加、無梗五加など数種のウコギ属植物の根の皮をさす。 五加皮を酒にひたしてつくる五加皮酒には鎮痛、強壮の作用があるとされるが 便秘症の方にはおすすめできない。少し多く飲むとおなかが張って便が止まり、 苦しくなる。銘柄によってアルコール度、味、値段に大きな違いがある。 (初出:「都市と自然 209号(1993年8月号)」よもやま図鑑4)