ヤマコウバシ  Lindera glauca

ヤマコウバシ(箕面市余野川:2005.1.19)

ヤマコウバシ (箕面市余野川:2005.1.19)

クスノキ科* クロモジ属 【*APGⅢ:クスノキ科】

Lindera:人名(Linder)から glauca:青緑色の、灰緑色の

ヤマコウバシはクロモジやアブラチャンなどと同じクスノキ科クロモジ属に分類される小木です。山の道沿いなどでは根元から刈り取られることが多いため数本の幹をもった株立ちになり、それほど大きくなることはありませんが、時には直径10cm、高さ7~8mに達することもあるそうです。クロモジにくらべ幹の直立性は顕著で、樹形は明らかに違っています。

ヤマコウバシはその出現頻度がクロモジにくらべかなり低いようで、夏の間はそれほど目立つ木とはいえません。しかし、初冬から翌春にかけてのあいだ枯れ葉を枝いっぱいつけ、まるで山の中で立ち枯れた木のように見えてわれわれの目を引きます。

それは、この木は寒さが来て葉が枯れても葉柄の付け根に離層ができないため落葉できず、枯れ葉を枝いっぱいにつけたまま冬を越し、翌春、花が咲き、新芽が出たあとやっと枝から落ちるからです。アベマキ、クヌギ、コナラなど、冬になっても長い間枯れ葉が枝に残る木もありますが、ヤマコウバシほど見事に残るものは少ないようです。

ヤマコウバシは雌雄異株で、日本の暖帯から朝鮮半島、中国大陸にも分布します。図鑑では日本には雌株しかないが、雄株無しで結実すると書かれています。

牧野の植物図鑑にはヤマコウバシという名前は枝を折ると香気があるからだと思うとありますが、各地でこの木の葉の乾燥粉末を餅に混ぜたり、大麦や小米の炒り粉に混ぜて団子にし、タンバ餅といって食べたそうですから、案外、葉を乾燥させたときの香りに由来するのかも知れません。また、中国ではこの木に野胡椒とか山胡椒という名があり、日本でも10月ごろ黒く熟すこの木の実をかむと辛味があるので山胡椒と呼ぶところもあるそうですから、こんなことも関係あるかも知れません。