ウェルウィッチア  Welwitschia mirabilis

ウェルウィッチア(京都府立植物園:1992.10.31.)

ウェルウィッチア (京都府立植物園:1992.10.31)

ウェルウィッチア科* ウェルウィッチア属 【*APGⅢ:ウェルウィッチア科】

Welwitschia:この植物の発見者にちなむ mirabilis:驚くべき

ウェルウィッチアという植物の存在を知ったのは大阪市立大学在学中で、メタセコイアで知られる故・三木茂先生の講義でだった。「それは南西アフリカのナミブ砂漠に生える裸子植物で、生涯たった2枚しか葉をつけず、それでいて、延々、数百年から2000年近くも生き続け、その葉の形は牛の舌のようだ」と表現された。牛の舌といわれても、それは植物の形と結びつかなかったし、なにより、たった2枚の葉で千年以上も生きる植物なんてどんなものかと、大いに空想をかきたてられた。

ウェルウィッチアの実物は、この講義を受けて間なしの頃、三木先生の引率で高槻市古曽部にある京大付属農場へ行き、そこの温室ではじめてみた。牛の舌というイメージはなかったが、リュウゼツランに似た灰緑色で、幅10数cm、長さ30~40cmのベローとした2枚の葉は昆布を連想させ、その先端はすり切れ、枯れていた。他のみずみずしい植物にくらべて何となく頼りなく、これで砂漠という厳しい環境の中を何百年、何千年と、どうして生きて行けるのか信じられない気がした。その反面、国立大学とはいえ出先の小さな農場の温室に無造作に生きているということは、案外、生命力の強い植物かも知れないとも思った。

こんな奇妙な植物はやはり気になり、関連する記事や写真は特別の関心をもって見るようになった。それほど頻繁ではないが、実物を見る機会も何度かあった。

そんな中、数年前の10月末、京都府立植物園の新築された温室の中にウェルウィッチアが2、3本植えられ、しかもそのうち一本が数本の花茎を立てているのに気がついた。茎花は赤褐色で長さ10cmほど、枝分かれした先端は松かさに似て、直感的に雌花茎と分かった。まさか日本の、しかも京都という近くでウェルウィッチアの花が見られるとは夢にも思わず、大喜びで何枚も写真をとった。

地球上に似た植物のまったくないこの植物は、広大なナミブ砂漠の中でも、幅が広く非常に浅い浸食谷で、地形がごく平坦なため、まれに降る雨水がしみこみ、また、周辺の山に降った雨水が地下水となって供給されるようなところに生えている。短い茎の先端は平らで浅い溝で2分され、葉は溝をはさんで茎の周縁部に対生する。自生地には葉の生きた部分が3m以上のものや、茎の直径が1m、推定樹齢千年を超えるものもある。裸子植物とはいうものの茎には被子植物と同様、導管があり、また、葉の付け根に分裂組織があって単子葉植物のような平行脈の葉をのばす。さらに、花には花被に相当するような構造があるなど、いわば裸子植物進化の一つの終点をしめし、まさに「驚異の植物」というにふさわしい。

(補足説明) ウェルウィッチア雄株(2001.11.23.) 年平均降水量が50mmというナミブ砂漠に生育する1科1属1種の裸子植物で、「驚くべき」という意味の種小名に由来する「奇想天外」の園芸名をもつ。雌雄異株(雄株の写真(右)は大阪市立「咲くやこの花館」で2001年11月23日写)。光合成能力をもち、1年半ほど生きる2枚の子葉のほかは生涯2枚しか葉を出さず、その葉が伸び続ける。「朝日百科・植物の世界(11巻176-177)」に見るような大きな株では、くねくね曲がった葉が何枚もあるように見えるが、長い年月の間に裂けたもの。茎は短く逆円錐型でほとんど土に埋まり、その下から非常に長い直根とたくさんの支根が伸び、水を吸収する。また、昼夜の大きな温度差によって生じる夜間の凝結水を根や葉から吸収するともいわれる。
 種子は直径約2~3cmで薄い翼をもち、風で散布される。京都府立植物園には1995年に結実した雌果枝と種子の標本が展示されている
(初出は「都市と自然」1997年12月号:よもやま図鑑56)