ワシントニアは大阪近辺の植物園はもちろん、公園樹や街路樹としても比較的よく植えられている大型のヤシです。高さは10数m、太さは30~40cm位にもなります。葉は縁にトゲトゲの突起のある長さ数10cm~1mぐらいの太い葉柄をもち、葉身は直径が1mを越えるぐらいの掌状葉です。また、とくに若い葉の裂片の縁が細く糸状に裂けるのも特徴の一つです(右写真:天王寺公園入り口交番そば 2006.8.12)。
ふつう、木の葉は枯れると葉柄の付け根に離層ができたり、自然に腐って地面に落ちるのがふつうですが、ワシントニアの場合、なかなか茎から落ちず、たくさんの枯れ葉が幹を包んだようになっているのが本来の姿です。それでワシントニアにはペチコートパームという名前も付いています。
ただし、日本ではこのように枯れ葉をつけたまま栽培している例はあまりなく、枯れ葉の葉柄の付け根付近で切り落として幹を裸出させているのがふつうです。私が学生の頃、大阪市立大学の本部前庭にワシントニアの列植があり、当時理学部におられた吉良竜夫先生の指導で葉を切り落とさず、本来の姿で栽培されていましたが、いつの頃か枯れ葉が切り落とされてしまいました(右写真:2006.3.25)。本来の姿を尊重するか、見かけの美しさを尊重するかの違いが出たのでしょうが、一度切った葉は元に戻りませんから、少し惜しいことをしたような気がします。
ワシントニアは日本の気候でも開花・結実するようで、思わぬところで1mくらいの小さな実生が生えているのを見かけます。たとえば天王寺公園入口にある交番の柵と地下鉄の四角い排気口に挟まれた狭い隙間にも生えています。さらに意外なところでは、産業廃棄物を埋め立てて作られた堺第7-3区(一般立ち入り禁止)の北端に近いところにできた池の岸べに、水に浸かるようにして何本かのワシントニアがありました(右写真:2006.7.25)。いずれも、人が意図して植えたものでないことは明らかで、鳥によってタネが運ばれたのではないかと思われます。
じつはワシントニアには2種があり、園芸植物大事典(小学館)によれば、幹が太くずんぐりした W. filifera (オキナヤシ:)は日本ではきわめてまれにしか栽培されず、もう一種の W. robusta(オキナヤシモドキ)はすらりと背が高く幹の根元がとっくり状にふくれるとされていますので、われわれがふつうに目にするのはこちらかと思い、ここではこの種小名をとりました。その一方で、世界有用植物事典(平凡社)には W. filifera にオニジュロ、オキナヤシの和名を与え、最もふつうに見られるとし、W. robsta (シラガヤシ、オキナヤシモドキ)はオニジュロより幹が太く、日本ではまれに栽培されるとあります。さらに別の資料では、日本ではオニジュロ(W. robusta)がふつうで、シラガヤシ (W. filifera) は幹が太く、まれに植栽されるとあって、文献によって記載に食い違いがあります。園芸植物大事典(小学館)には成長にともない形態はかなり変わるとか、両種の交雑種があるとの記載があり、どちらがどちらか、分かりかねるところもあるようです。
なお、両種はともに北アメリカ原産で、W. filifera はカリフォルニア南部、アリゾナ南西部、ニューメキシコに分布し、W. robusta はメキシコ西北部に分布します。