ウツギ  Deutzia crenata

ウツギ(西宮市ゴロゴロ岳付近:1995.6.16)

ウツギ (西宮市ゴロゴロ岳付近:1995.6.16)

ユキノシタ科* ウツギ属 【*APGⅢ:アジサイ科】

Deutzia: 人名 crenata: 円鋸歯(きょし)状の

「卯の花の匂う垣根に ほととぎす来鳴きて しのび音もらす 夏は来ぬ」と歌われるウノハナは、 ふつうウツギとよばれ、初夏に浅い山の道を歩くと、川沿いや森林の伐採跡などにいやというほど 目につく潅木です。対生した葉にはこまかな硬い毛が生えており、ザラザラした感じがしますが、 その大きさにはかなり大きな変異があり、若い徒長枝につく葉は長さが10cm近くに達するもの がある反面、細い枝の葉はわずか4~5cmの大きさしかないこともあります。 総状または円錐花序に純白の小さい花をたくさんつけ、卯(ウサギ)の花という表現が 素直に納得できる美しさがあります。ただし、品種の中には八重のもの(シロヤエウツギ)や 八重になった花弁の外側が美しい紅色に着色するもの(サラサウツギ)がなどがあります。

ウツギに近い同属の樹木にヒメウツギ、マルバウツギがあります。ヒメウツギ(写真左:大阪府立大学 2000.6.2))は高さ数十cmの やさしい感じの潅木で、また、マルバウツギ(写真右:住吉大社うのはな苑 2000.5.14)はウツギにたいへんよく似ており、名前のとおり葉が ウツギにくらべ丸いのが特徴です。

ウノハナがウツギと呼ばれるのは茎や枝の中心部が中空になっているからですが、 茎が中空の樹木は他にもたくさんあり、XXウツギと呼ばれるものが少なくありません。 しかし、分類学的には必ずしもウツギに近いとは限らず、たとえば庭などによく植えられるタニウツギや ハコネウツギなどはラッパ型の合弁花をつけるスイカズラ科の樹木ですし、 山でよく見かける小さな星のような花を付けるコゴメウツギはバラ科の潅木です。

ウツギをもっともよく見かけるのは、伐採跡などの、もともとの植生が破壊されたところや、 細い谷川の岸辺などの土壌が攪乱されたところです。このようなところはいずれも土壌条件が非常に不安定で、 すぐに土に埋まったりしますから、植物にとってはどんなところからでも新しい枝を出せる性質を持つことが 生存する上で有利になります。ウツギに限らず、××ウツギと名前のつく木にはこのような萌芽性の強いものが多いような気がします。 いずれも荒れた環境を象徴する植物の一つということができるでしょう。