ツクバネガシ  Quercus sessilifolia

ツクバネガシ(奈良公園:2004.1.1)

ツクバネガシ (奈良公園:2004.1.1)

ブナ科* コナラ属(アカガシ亜属)【*APGⅢ:ブナ科】

Quercus : よい材木  sessilifolia : 無柄の葉

わたしにとって奈良公園を歩く楽しみは、イチイガシやモミの巨木にふれたりナギ純林の奥深い雰囲気に包まれることにありますが、ツクバネガシの存在を確かめることもそのひとつです。

月日亭そばのツクバネガシ:2004.1.1.月日亭そばのツクバネガシ:2004.1.1 もちろん、大阪付近の山にもカシの仲間はたくさん生えていますが、そのほとんどはアラカシで、ついでシラカシやウラジロガシも目にする機会が比較的多くあります。また、妙見山や和泉葛城山、高槻の本山寺近くなど標高のやや高いところへ行きますと、アカガシがかなりたくさん生えています。しかし、これらのカシにくらべると大阪府下で自生のツクバネガシを見かける機会は極端に少なく、ツクバネガシを見たいときには奈良公園へ出かけるのがいちばん手っ取り早いからです。とくに若草山山麓にある月日亭そばにあるツクバネガシの老大木は風格があって、講座や観察会の時には必ず立ち寄ることにしていました(写真左 2004.1.1)。しかし、この個体もその後の台風被害や老衰により大きく損傷し、近い将来枯死してしまうのではないかと心配しています(写真右:2011.9.25)

大阪でツクバネガシをあまり見かけない理由のひとつは、ツクバネガシの個体数がもともと少ないうえ、その分布が標高500-800mぐらいに中心を持ち、標高 200m以下では生育密度が非常に低くなることが関係していると考えられますが、何よりも、ツクバネガシが人間による撹乱をあまり受けず、昔からの安定した環境の中でしか生き延びることができない性質を持っているからではないかとわたしは考えています。

ツクバネガシの葉(裏面):2004.1.1. ツクバネガシという名前は、数枚の葉が枝先に輪生状に集まってつくようすを正月の衝羽根になぞらえたものです。葉は堅く、表面は光沢があって裏面は淡緑色をしています(写真 2004.1.1)。多くの本にアカガシに似ると書いてありますが、アカガシは葉柄がたいへん長く、葉柄の短いツクバネガシとは区別が容易です。また、葉の主脈が表面でくぼみ裏面に突出すること、葉の縁がわずかに裏面へ巻き込み堅くなっているので、手でさわると少し引っかかるような感触があることも同定の手がかりになります。落ち葉を拾ってよく見ればツクバネガシとわかります。