トチュウ  Eucommia ulmoides

トチュウ(1999.10.11:阪市大植物園)

トチュウ (1999.10.11:阪市大植物園)

トチュウ科* トチュウ属 【*APGⅢ:トチュウ科】

Eu:本当の、commus:ゴム質の ulmoides:(実が)ニレに似た

はじめて「トチュウ」という名前を聞いたとき、一瞬、何の途中という意味 だろうと考えて、いや、木の名前にそんな中途半端なものはない、きっと外国 の名前だろう、と思い直した人も多いと思います。事実、この木は中国中部原 産の雌雄異株の樹木です。

一見何の変哲もなく、カキの木に似て、濃緑色の葉をつけた平凡な木ですが、 よくみると葉はカキよりもっとシワが多く、葉脈の様子もずいぶん違います。 葉がシワシワに見えるのは網状に走る葉脈が葉の表面でくぼんでいるからで、 この葉脈は、葉の裏では突出しています。また、タネ(果実)の形もカキとは 全く違い、平たい長楕円形をして、アキニレのように風で飛ばされます (ただし、アキニレの種子よりはもっと大きいタネです)。

しかし、この木を特徴づけているのは、何といっても、樹木全体、どこをち ぎっても出てくる、グッタペルカとよばれるゴム質の粘液でしょう。葉をそっ とちぎって行くと、葉脈から出てくるゴムのりのような粘液が、二つにちぎれ た葉片をつないでいる様子をごらんになった方もいるかも知れません(右写真:グッタペルカでつながるトチュウの葉(1999.10.11:大阪市立大植物園))。

また、タネをちぎってもこの粘液はでてきます。この特徴は大変きわだったも ので、この木の英名は gutta-percha tree (グッタペルカの木)となってい ます(ただし、本当のグッタペルカノキというのは熱帯アジアにはえるアカテ ツ科の樹木です。トチュウは温帯でグッタペルカを出す唯一の木として有名な のです)。グッタペルカはこのような粘質の樹液を精製乾燥させたもので、 60度以上で軟化、常温で硬化し、硬質ゴムの材料です。昔は電線の絶縁体とし て利用されたそうです。トチュウの葉や樹皮にはグッタペルカが約 6.5%含ま れているそうですが、収量が少なく、今は利用されていません。

ところで、「トチュウ、杜仲」という名前は漢方薬に関心のある方はきっと 耳にされた事があると思いますし、テレビのコマーシャルでも時々目にします。 薬用植物の図鑑を見ますと、この木の皮を陽に干したものが「杜仲」で、強壮 剤に使われたり、鎮痛薬として関節炎やリューマチに用いられるそうです。 日本では植物園や公園にときどき植えられているだけですが、中国ではかなり 大規模に植栽されているようです。