トベラ Pittosporum tobira

トベラの果実(1999.12.16:大阪府立大学)

トベラ(1999.12.16:大阪府立大学)

トベラ* トベラ属 【*APGⅢ:トベラ科】

pitta:ピッチ(ネバネバしている)+spora:種子
tobira:扉(とびら)

トベラという和名は、実は扉(とびら)のことで、地方によってはトビラキ、トビラノキとよぶところもあり、 その由来は、節分の日にこの木を扉にはさんで疫鬼をさけることにあるそうです。

トベラの種子(大阪府立大学:1999.12.16) トベラの花(大阪府立大学:2000.5.16.) ふだん何となく目立たない木で、5月頃白い花が咲きますが、すぐ黄色く変色したあと散ってしまい、 あまり特徴の無いまま冬を迎えます。ところが11月も終わりになりますと、緑色の果実が黄色く変色し、 やがて3つにパックリ割れて、その中に真っ赤なタネがいくつもネバネバの液でくっついているのが見え、 思いがけない色合いをみせてくれます。属名の Pittosporum というのは、 種子がピッチのようにネバネバしているという意味で、植物の特徴をよくとらえた名前といってよいでしょう。

トベラは日本だけでなく、朝鮮南部から中国大陸にかけての暖帯~亜熱帯の常緑広葉樹林に分布しますが、 おもに海岸近くでよく見かけます。本来数mの高さに達する小高木ですが、 海岸近くではもっと背が低く、枝わかれの多い潅木状になっていることが多いようです。 これは、海岸ではふつう風が強いのでその影響を受けること、数年に1度の台風によって海水のしぶきがかかり、 枝先が痛みますが、萌芽によってすぐたくさんの枝を出して樹勢をとりもどす、 という繰り返しが独特の樹形を作り上げているからだと考えて良いでしょう。

この木が強い萌芽力をもつという特徴は、強い刈り込みにも耐えるということでもあり、 それだけ管理しやすい木でもありますから、好まれて公園や庭園に多く植えられています。 したがって街の中でも極めてふつうに見かける木であり、トベラを知らない人は少ないのではないでしょうか。

潮風に強いという性質は、都市の大気汚染に対する抵抗性にも共通するところがあるのか、一時の激烈な大気汚染によって多くの樹木が弱っていたときでも、この木は比較的正常に成育していました。このような性質は、同じように萌芽力の強く、海岸性の樹木であるウバメガシと非常によく似ています。