テンダイウヤク  Lindera strychnifolia

テンダイウヤク(菅原神社(枚方市):2005.10.10.)

テンダイウヤク (菅原神社(枚方市):2005.10.10)

クスノキ科* クロモジ属 【*APGⅢ:クスノキ科】

Lindera: 人名から strychnifolia: マチン(Strychnos)のような葉

秦の始皇帝が不老不死の薬をもとめ、徐福を東の海に派遣したところ台風に遭遇し、今の和歌山県・新宮に流れ着きました。徐福はその後中国に帰ることなく新宮で一生を終わりましたが、不老不死の妙薬テンダイウヤクは捕鯨法などとともに彼が日本に伝えたものだ、と言う伝説があります。新宮には徐福のお墓まであるのですが、考えてみますと秦の時代というのは紀元前220年ほども昔のこと、その頃の日本はまだ文字もない弥生時代で、徐福が本当に日本に来たのかどうかさえ定かではありません。そんな訳で、ちゃんとした図鑑のテンダイウヤクの項には江戸時代の亨保年間(1716-38)に中国から渡来したとあるだけで、徐福のことは何も書いていません。当時、将軍だった徳川吉宗が暦学や本草学を奨励し、青木昆陽らが中国から導入したというのが事実のようです。

菅原神社:2005.10.10. テンダイウヤク(菅原神社:2005.10.10) テンダイウヤクはクスノキ科の潅木ないし小高木で雌雄異株、ふつう植物園などに植えられています。しかし、ところによっては野生状態で生えており、大阪では枚方市長尾の菅原神社(右写真2枚:2005.10.10)が有名です。徐福がきたという新宮では、国の天然記念物になっている「浮島の森」の中にも生えています。常緑の革質の葉をつけ、表面は光沢があり裏面は粉白色です。3本の目立った葉脈があり、一目でクスノキ科だと分かりますが、同じ Lindera 属のクロモジやアブラチャンなどでは3行脈は目だちませんから、クロモジ属の特徴というわけではありません。

テンダイウヤクの薬になる成分は紡錘状にふくらんだ根の部分に多く含まれ、乾燥させた根を烏薬と呼んでいます。中国南部の天台山地方で取れるものが品質がとくに優れているので天台烏薬と呼ばれ、それが植物名になりました。因みにこの植物の中国名も烏葯(葯=薬)です。烏薬は漢方で芳香性健胃薬や鎮痛薬として重用されていますが、不老長生とは行きません。