タブノキ  Machilus thunbergii

タブノキ(2005.7.8.:大阪市北区)

タブノキ (2005.7.8:大阪市北区)

クスノキ科* タブノキ属 【*APGⅢ:クスノキ科】

Machilus :インドネシアでの名前 (makilan)から  thunbergii:ツンベルグ(人名)の

タブの果実(2000.7.11.:大阪府立大学) タブノキは、大阪などでは公園や街路樹によく植えられていますが、もともとは海岸に近いところに自生するクスノキ科の樹木です。しかし、クスノキ科に属するといっても、クスノキやヤブニッケイ、シロダモなどのような目立った3行脈がありませんので、慣れないうちはカシの仲間かと思ってしまいます。ただ、冬から春先にかけて、枝先の芽鱗につつまれた冬芽が一斉に大きくふくらみ、それを見ればタブノキだといっぺんに分かります。多くの場合、この芽の中から若葉とともに円錐花序が現れ、花がさきます。そして6月には目立って赤い果柄の先に大きさ1cmくらいの濃い緑の果実ができ、7月には黒く熟します。この実はヒヨドリなどの野鳥の格好のエサになっています(右写真:タブノキの果実(大阪府立大学 2000.7.11))

じつは、タブノキという木があることを知ったのは、大学の専門課程に入って吉良竜夫先生の植物生態学の講義を受けたときでした。そのとき、とても印象に残ったのは、タブノキは日本海側では青森まで、太平洋側では仙台付近までのかなり北まで分布するもののいずれも海岸部に限られて内陸部へは入り込まないこと、また、琵琶湖では湖岸に近いところでは分布するけれど少し内陸部にはいるとすぐ見られなくなること、そして、この分布限界が冬の何度かの最低気温の線と一致する、ということでした。つまり、海や大きな湖のそばでは水体の持つ緩衝効果により冬の寒さが和らげられ、そのようなところでは冬を越して生育できるけれど、それより内陸では冬の寒さが厳しすぎて枯れてしまう、というのです。

植物の分布北限、あるいは分布上限をきめるのは、一般的には夏の暑さ・長さです。つまり、春になって新葉が展開したあと、花が咲き、実が熟すまでにはある程度の時間がかかりますが、仮に暖かくなって花が咲いたとしても、夏の気温が低かったり期間が短かったりして、タネが熟する前に冬の寒さが来てしまいますと、次の世代を作ることができず、分布を広げることができません。

それに対して、タブノキでは夏の暑さ・長さよりも、冬の寒さの厳しさが分布限界を決めているわけで、このような例はシイやカシなどの照葉樹にみられます。