ソテツ (その2)  Cycas revoluta

緑照寺ソテツ 2005.10.13)

泉大津市緑照寺のソテツ主群株もと ( 2005.10.13)

ソテツ科* ソテツ属 【*APGⅢ:ソテツ科】

Cycas:ソテツのギリシャ名(kykas)より revoluta:外旋の、反巻の

私が大阪市立大学八重山群島学術調査隊の一員として初めて沖縄へ行ったのは60年近くも前のことでした。当時はまだアメリカの占領下で、神戸からの船便でしたが、奄美大島に寄港した際、甲板に黒い丸太状のものが数本積まれているのに気がつきました。グループリーダーの安藤先生にお聞きしましたら、「ソテツ」という返事が返ってきてびっくりした記憶があります。ソテツをつかって造園するとき、多くの場合根も葉も切り落とし、何本かの幹を組み合わせて植えるのだそうです。

ソテツの仲間(ソテツ科)には世界の主に熱帯・亜熱帯に9属約70種があるとされ、すべて雌雄異株ですが、日本にはソテツ 1種しか自生していません。同じ調査の際、西表島西北端の網取集落(現在は廃村)で狭い入り江を挟んだ対岸の急斜面に点々とソテツが生えているのを見て、ソテツというのはこんな所に生えるのかと知りました。 大阪府立大学 1999.7.21

大きくなったソテツの雄株では、6月頃、幹の先端から大きな白い雄花序が伸びてきますが、それはどことなく松笠を大きく長く引き延ばしたような印象を受けます。松笠の鱗片に似て螺旋状に配列したへら状のものは小胞子葉とよばれ、裏面に花粉の入った小さな袋(花粉嚢)を無数につけています。小胞子葉はもともとソテツの葉と同じものですが、色も形も全く違ってしまっています(右写真:大阪府立大学 1999.7.21)

長居植物園 1999.9.5. 雌株もやはり6月頃茎の先端に黄褐色のサッカーボールくらいの球状の雌花をつけますが、ふつうの植物の「花」とは印象が違い、むしろ球花と言うべきものです。これは、たくさんの大胞子葉が集まったもので、1枚の大胞子葉は全体が黄褐色の軟毛で覆われ、先端がソテツの葉のように羽状に枝分かれし、根元に近い柄の両側に数個の種子が互生につき、成熟すると赤く色づきます。どんな植物の花も元々は葉っぱから進化してきたと言われていますが、ソテツの大胞子葉は葉の形をよく残し、なるほどその通りだと実感できる例としてとても有名です(左写真:長居植物園 1999.9.5)

ソテツはヤシに似た特異な樹形が珍重されて寺院の庭園などに好んで植えられ、なかには樹齢も古く、樹形も見事だというので国や府県指定の天然記念物がたくさんあります。大阪では堺市妙国寺のソテツが国指定天然記念物として特に有名ですが、現在は樹齢数百年の歴史から期待出来る立派な樹形はなくなっています。

数年前に私が関わった泉大津市神明町の緑照寺境内にあるソテツの植え込みは特に見事なものでした。

ここは低い石積みで一段高くした築山に、主・従二つの植栽群を作り、向かって左側には地上20cmの根元幹周りが326cm、高さ420cmに達する個体を主木とする6本のソテツを、幹を寄せ合って植えて主群とし、4mほど離れたところに幹周り162cm、樹高245cmの個体など4本をあつめて従群とした植え込みになっていました。  主木の幹周り326cmというと直径1mを少し超える超弩級といえる太さで、この個体は地上50~110cmの間で直径39、38、30cmなど大小6本に枝分かれし、そのうちの1本は473cmもある長い枝を横にのばし、途中で大小7本の枝を出すという大きなものでした(上写真)

このお寺のソテツは最初に造園されたあと枯死や補植の形跡もなく、現在まで少なくとも100年以上は維持されてきたと考えられ、泉大津市の天然記念物に指定されました。
初出:「都市と自然」 No.412 (2010年7月号)