ヤシの仲間の分布の中心は、圧倒的に湿潤熱帯、亜熱帯にあり、ヤシが生育できること、そのことがその土地の高温多湿を意味するといって過言ではありません。ですから、私たちのまわりにごくふつうにシュロが生育できているということは、とりもなおさず、私たちのまわりの気候条件が湿潤な、熱帯的な性質をもっているといることをしめしています。事実、西日本の夏の暑さは熱帯なみですし、また、雨の多さも、世界的にみるとかなりのレベルに達していますから、ヤシの仲間であるシュロがが生育できること自体、不思議でも何でもないといえるでしょう。
シュロは、もともと中国南部に自生する雌雄異株の木本性単子葉植物です。枝分かれしない、同じ太さの幹がまっすぐ立っていて、大型の掌状葉が幹の頂上に生えるのは多くのヤシ科植物の特徴です。日本の九州南部にも自生するという説があるものの自生地の確認はなく、疑問視されています。古くから日本各地で栽培されており、大阪付近でも、公園や庭園に植えられたものが目につきます。人里に近い浅い山麓部などで、鳥によって散布された種子から発芽したシュロが野生状に生えている場合も少なくありません。しかし、深い山で生育しているのを見た記憶がありません(右写真:長居植物園・落葉樹林ゾーン林床に群生するシュロ実生2003.1.5))。
シュロの幹を取り巻くように生えている繊維質のもの、すなわちシュロ毛は枯死した葉鞘部の繊維が残ったものですが、耐水性がつよく、縄やマット、ほうきなどをつくります。また、若い葉を漂白して草履表(ぞうりおもて)、帽子、敷物、篭などをつくります。さらに、真っすぐな幹は、お寺の撞木(しゅもく:鐘をつく棒)や建築材料としても使われます。
シュロにごく近い植物としてトウジュロ(T. wagnerianus 写真下:2003.1.5 長居植物園)があります。両者の区別は、シュロは葉が大きく、裂片が途中で折れて下へ垂れ下がっているのに対し、トウジュロの葉はやや小さく、ピンと広がって裂片が垂れ下がることがないことです。しかし、両者の中間的な形態を持つもの(アイジュロ)があって、両者を同種と考える研究者もいます。
【閑話休題(2012/8/4)】
過日、友人のTさんから質問メールが来ました。
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本日堺7-3区で不思議なものを見ました。
ほぼ1ヶ月前に、高さ約2メートル(最上位の葉のでている根元で)のワシントニアを茎頂から約30センチの高さで切りました。切り口の芯は直径3㎝ほどの白いでんぷん質で、食べてみると甘い(サラダに入れるとおいしそう)、などと遊びました。
本日見ると切り口から葉が数枚(最大50センチ)出て再生していました。
芯のどの位置に「成長点」があるのでしょうか。つまり、先端からどのくらいの高さで切ると成長力を失うかです。除伐のために必要な情報と思っています。
私の返信
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ワシントンヤシのことは分かりませんが、シュロでは、根元で切った時、その切り口から、新芽が出てきているのを見たことがあります。天王寺公園の慶沢園の端っこの方でした。
切る前の高さがどれくらいだったか分かりませんが、切り株がそこそこ太かったので、高さも少なくとも1~2mはあったのではないかと思います。
ヤシ科の植物では、若い時期には成長点がかなり長い間地中にあるのかも知れません。
あるいは、幹が切られたことによる刺激をうけて、幹の中心部にある柔組織が新しく成長点を分化させたのかも知れません(ぼくは、この程度の適応能力を持っていてもよさそうな気がします)。
添付写真の89番に写っている2本からは芽が出ていないので、あまりひねてしまうともう芽は出ないものと思います。
これらのシュロは、その後見に行ったときには、全部無くなっていました。公園管理で掘り上げてしまったのだと思います。
Tさんからの返信メール
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ワシントンヤシの再生の様子は、添付写真のシュロと全く同じ状況でした。
写真のシュロも葉が途中で切られた形になっています。ワシントンヤシも同様でした。切った断面には葉の痕跡がなかったのに、葉が切られている形は不思議です。
根絶するには根元から切る必要を感じますが、葉柄がトゲだらけで大変です。
シュロの切り株から出てきた新芽(2008年5月18日天王寺公園慶沢園(大阪市))