大学の専門課程に入り、本気で植物の名前を覚えようとした頃は、 しょっちゅう信貴山や生駒山、奈良公園などへ出かけ、手当たり次第に標本をとっては図鑑と絵あわせをしたものでした。 そんな中でシロダモは目立った特徴が多くてすぐに名前が分かり、私のレパートリーに最初に入ってきた木の一つでした。
シロダモは大阪近辺にはごくふつうにあるクスノキ科の樹木で、
図鑑によれば樹高15m、幹直径50cmに達することもあるそうです。
しかし、わたしは実際にそんな大きな木を見たことはあまりなく、ふつうはせいぜい数mの高さの個体が多いようです。
クスノキに似て葉に目立った3本の葉脈(3行脈)があり、葉の裏は名前のとおり白くなっています(写真:シロダモの葉裏(神戸市東灘区保久良神社 2001.1.2))。
春先に新葉が出てきたとき、葉の表面は褐色の長い毛に覆われていますが、これはすぐに落ちてしまい、
成熟した葉には毛はありません。
シロダモは雌雄異株で、花は秋に咲きます。しかし、この花はあまり目立たず、 同じ属のイヌガシが冬に赤褐色のかなり目立った花をつけるのと異なります。 そして雌木につく果実は、翌年の秋、開花と同じ頃に赤く熟します。クスノキ科の木の実としては1.5cmほどでやや大きく、 しかも鮮やかな赤色に熟して大変目立ち、美しいものです。こんなに美しい実をつけるのなら、 たとえばアオキのように庭木や公園樹としてもっと使われてもよさそうなのに、 それほど使われることがないのは、移植に弱いからだとされています。
ところで、ふつうシロダモの成熟葉には毛がほとんどありませんが、 葉の裏に褐色の長い毛をもつものがあって、キンショクダモ(f. aurata)と呼ばれています。 新葉にあった褐色の毛が脱落せずに残ったものと考えてよいかもしれません。 もう10数年以上もまえですが、九州へ調査に行った同僚の一人から、 たしか国営「海の中道公園」(福岡市)でとってきたというキンショクダモの標本を見せてもらった記憶があります。 日本原色植物図鑑(保育社)の記載でみるかぎり、キンショクダモの分布が九州に限定されているわけではないのですが、 少なくとも大阪、京都、奈良などで見た記憶はわたしにはありません。