シキミ  Illicium anisatum

シキミ(京都府立植物園:2000.4.2.)

シキミ (京都府立植物園:2000.4.2.)

シキミ科* シキミ属 【*APGⅢ:マツブサ科】

Illicium : 誘惑 anisatum : (薬草、香辛料の)アニス

シキミは仏事と関係した使い方をされることが多く、例えばお葬式のときシキミの枝を束ねて柱のように立て並べますし、死に水を取るときもシキミの葉で死者の口を湿めす風習があります。これは、シキミはもともと神聖な木(栄木)でその枝葉には強い芳香があり、死臭を和らげるとか、この匂いを悪霊や野生動物が嫌い土葬のお墓をあらすのを防ぐと考えられたことと関係があります。またシキミは全木有毒で、特に種子には強い有毒成分が含まれています。食べると甘みがあるそうですが、ひどいときには死ぬこともあり、決して食べてはいけません。ちなみに「シキミ」という名は「悪しき実」に由来するとする説が有力なのも、この実の毒性の強さを示しているといえましょう。

シキミは、現在、シキミ科に分類されていますが、昔はモクレン科に含まれていました。多数のおしべがらせん形に配列しているところは似ていますが、モクレン科ではめしべもたくさんあってらせん配列するのに対し、シキミでは、通常8つのめしべがお互いにくっついて輪状に配列しているところが違います。少数のものが合着しているものより、多数のものがバラバラにらせん配列する方が原始的だとされていますので、シキミのほうがモクレンの仲間より進化したグループと言えます。また上の写真からもうかがえるように、シキミの花では花弁、萼、苞葉の形の変化が連続的で、お互いはっきり区別できないのもこの植物の一つの特徴です。

シキミは縁起の悪い木として庭に植えれることの少ない木ですが、そういう点を離れてこの花をよく見ると、目立たぬ中にもいわれぬ美しさがあり、私には捨てがたい魅力が感じられます。こんな思いをする文人も少なくなく、例えば蕪村には

という句がありますし、北原白秋も
とうたっています。