ムクノキ  Aphananthe aspera

ムクノキ

ムクノキ (長居植物園:2002.10.6)

ニレ科* ムクノキ属 【*APGⅢ:アサ科】

aphanes: 顕著でない +anthos:花 aspera:ざらざらしている

冬季の葉の無い時期に落葉樹を同定(名前を調べること)するには、樹形、樹肌のもよう、枝の出方や枝先のようす、冬芽の色、形、大きさなどを手がかりにします。また、枝先にのこった1、2枚の枯れ葉や木のまわりの落ち葉などにも充分注意をはらうことが大切です。しかし、何といっても葉のある時期に確実におぼえた上で、その木が冬にはどんな姿になるかをよく観察し、その木に関する知識の幅を広くしていくことが必要でしょう。

私の観察会ではしょっちゅういうことですが、大阪近辺でふつうにみかけるニレ科の樹木は、アキニレ、エノキ、ケヤキ、ムクノキの4種しかありません。これらはそれぞれかなりはっきりした個性を持っていますから、この4種については自信をもって区別できるようになってほしいものです。

これらのうちムクノキとエノキ、ムクノキとケヤキは葉の形が酷似する場合があり、また、ムクノキとケヤキは樹形がよく似ていて区別が困難なときがあります。こんなとき、幹や枝の特徴を意識的に把握しておくと同定が大変楽になります。

なかでもムクノキのあまり太くない幹や枝はやや白っぽい灰色をしており、縦に走るすじ状のくぼみがあって特徴的な模様をつくっていますから、大変分かり易い手がかりになっています(写真左:大阪府立大学1999.8.4)。ただし、幹が太くなりますと樹皮がはがれたりしてこの特徴は分からなくなり(写真右:天王寺公園慶沢園 2000.12.2)、とくに非常に太い幹の場合はケヤキなどと非常に似てしまいます。そんな時は木の上のほうのやや太い枝にこのすじ模様がないかどうかを探します。また、ムクノキの根もとのところはスカ-トのひだのように張り出して板根(ばんこん)状になりやすいことも特徴です。これに対しケヤキやエノキの幹は平滑で、ムクノキのような縦に走るすじ模様はありませんし、アキニレの幹は一見ヒマラヤスギの肌のようにザラザラしていますから、まちがえることはありません。

なお、ニレ科以外でムクノキに似た樹肌をする木がいくつかあり、たとえば、すこし攪乱されたようなところに必ず出現するアカメガシワ(トウダイグサ科)の肌はムクノキとよく似ていますが、枝の出方、枝の太さなどが全く違いますから混乱することは無いでしょう。

ところで、種小名の aspera は「ざらざらしている」という意味だそうですが、これは葉の表面が非常にざらざらしていることに由来します。ずいぶん昔のことですが、日本の伝統工芸作家が小さな家具などの表面を磨くときに、ムクノキの葉を使っておられるのをテレビで見たことがあります。