樹木の名前というのは不思議なもので、例えばカゴノキとかアカメガシワというふうに、 それなりに意味をもっているとたいへんおぼえ易いのですが、 何のことか全く見当のつかない名前というのはなかなか親しめず、 おぼえるのに苦労するものです。おまけに、その木にこれと言った目だった特徴がない場合にはとくにそうだと言えるでしょう。 いまでこそ公園や庭園で見かけても、葉柄のところが少し赤紫色になっているのを手がかりにすぐに分かるようになりましたが、 私にとって語源不明とされるモッコクがこんな種類の樹木でした。
モッコクは日本庭園や学校などによく植えられているツバキ科の常緑樹で、
派手なところの全くない木です。葉の大きさは木によってかなり違いますが、
ふつう長さ5~8cm、幅3~4cmで鋸歯はなく、葉身は葉柄にながれて全体がへら形になっています。
表面は濃緑色、裏面はうす緑色で、サカキやシキミと同様、側脈はほとんど目立ちません。
輪生した数枚の葉が枝先に集まってついています。また、淡黄白色の小さな花を6月末から7月始めにたくさんつけ、
8月には若い果実が見られますます。しかし、木によっては雄花しかつかないため、全ての木に実がなるわけではありません。
果実は1~1.5cmの球形で赤く熟し、やがて果皮が割れて脱落し、中の赤い種子が白い糸のようなものにぶらさがります。
大阪近辺で野生のものを見ることはふつうありませんが、分布図をみますと本州西南部や九州、四国の主に海岸部に自生していることが分かります(写真左:モッコクノ花(住吉公園(2003.7.8)、写真右:モッコクの果実(尼崎市西武庫公園:2002.10.5))。
モッコクはあまり特徴のない木だと書きましたが、実は庭木としては非常に高い評価を受けており、「庭木の王である」とさえ言われます。 これは木の成長が遅いため、特に剪定などしなくても気品のある樹容が維持されるためで、 日本庭園では主木として中心的な役割を与えられています。
私はまだモッコクの木の切り口を見たことがないのですが、材はたいへん緻密で堅いそうで、 白蟻の害や腐りを受けにくいため、沖縄ではイジュなどとともに第1級の建築材にされており、 また、材の色が赤くて美しく、床柱や寄せ木細工、くり物、櫛などを作るのに利用されているそうです。