クスノキ  Cinnamomun camphora

クスノキ (泉大津市泉穴師(いずあなし)神社:1998.11.9)

クスノキ科* クスノキ属 【*APGⅢ:クスノキ科】

Cinnamomum:桂皮、シナモン camphora:樟脳

泉穴師神社(1998.5.15)小学生か中学生のころ、大きなクスノキの話をきいた。なんでも、朝日が昇ると影は淡路島まで届き、夕日になると影は高安山を越えたという。その樹の影のため農耕がうまくできず、困窮した人々はこの木を切り倒し、その材で船をつくったら何百人も乗れる大きな船ができ、速さは空を飛ぶ大鳥のようだったという。当時、八尾に住んでいたから高安山は毎日見ていたが、あの山を影にするほど大きなクスノキとはどんな木かと、大いに想像をかき立てられた。後年、マレーシアやスマトラで丸木舟を何度も見たが、そのたびにどんな木でこの船をつくったかと、子どものころ聞いたクスノキを思い浮かべたものだ。

数年前、泉大津市の泉穴師神社境内にあるクスノキの大木を見て、これなら話にきいた船をつくれるかも知れぬと思った。幹まわり5m以上、木の高さは30m以上もあり、まっすぐな幹が10m以上も通っている。これをたて半分に切り、うまくくり抜いて丸木舟をつくったら、一本の木から2隻の舟がつくれる。 この木のように伸びやかなエネルギーを秘めた神木でつくった舟なら、きっと空を飛ぶほど速く進むだろう。

大阪でクスノキを知らない人はまずいないといってよい。神社はもとより、公園や校庭には必ずといっていいほど植わっている。葉をはじめ、樹木全体に樟脳を含むため耐朽性、耐虫害性が高く、また、大材が得やすいため、昔から社寺建築の柱や土台に用いられるほか、家具や仏像彫刻など、広い範囲で利用された。

大阪には国や府の天然記念物に指定されたクスノキの大木が多く現存する。たとえば門真市三島神社の「薫蓋(くんがい)の楠」は、樹容魁偉、いかにも国指定の天然記念物という貫録をもった大木で、太い枝をウネウネと四方に伸ばし、すごい迫力で小さな社域をおおっている。また、百樹会を始めたころ泉南市にある「岡中の楠(府指定天然記念物)」を見に行ったが、参加者全員が一様に驚きの声を上げるほど堂々たる木で、数人がかりでやっと手がつながるほど大きな幹だった。さらに、住吉大社の境内にある大木群も目を見張るもので、これらの木を見るたびにクスノキのもつ巨大なエネルギーに圧倒されてしまう。クスノキがこのような巨木になりうること自体、これらの木が人々の親しみと畏敬の中で生きてきた証拠といえよう。

写真の説明: 泉大津市泉穴師神社のクスノキ大木。この境内には幹まわり3.5m以上のクスノキが12本あり、平成12年3月、「クスノキ大木群」として同市天然記念物に指定された。大阪府には国や府が指定した天然記念物のクスノキは数多いがいずれも単木指定であり、市レベルとはいえ「大木群」として指定されたのは泉穴師神社の例がはじめてとなる(写真上:1998.11.9、写真下:1998.5.15)。
 淡路島に影が届く大木については古事記・仁徳天皇の項に記載があるが、子どものころ聞いた話と多少異なり、クスノキとは書いていない。しかし、風土記には播磨や肥前佐賀にクスノキ大木があったことの記載がある。
<初出:都市と自然1999年4月号>