クルメツツジは分類学的にはキリシマツツジと同じものですが、江戸時代に久留米藩の坂本元蔵が品種改良を始めた一群の品種群をクルメツツジとよんだのが始まりで、 園芸学的には両者を多少違ったものとして取り扱っています。 名前のついた品種が全部で700、現在残っているものが約300あるとされています。
もう30年以上も前のことですが、ちょうど5月の連休のころ、私市植物園のツツジ園を散策していたとき、 どことなく奇妙な花の咲き方をしているクルメツツジがあるのに気がつきました。 花色は赤もあり白もあるのですが、ふつうのツツジに比べ何となく花弁が多く、暑苦しい感じがするのです。 初めは花の数がやたらに多いのだと思っていたのですが、ふと気がつくと、実は花の数が多いのではなく、 ひとつひとつの花が、ちょうど茶わんを二つ重ねたように二重になっているのです。 二段になった花弁(花冠)は色も形も全く同じで、はじめ単に花数が多いのだと思ったのは無理はないと思いました。/
なぜ花冠が二段になりうるかが次の疑問でした。花というのは、花の中心から雌しべ、雄しべ、その外側に花弁
(ツツジの場合5枚の花弁がくっついてロ-ト状の合弁花になっている)、さらにその外側に萼(がく)があります。
初めはこの花弁が何かのきっかけで二重になったのかと思ってさらによく見ると、実はそうではなく、
花弁が二重になっている花には萼がないことに気が付きました。つまり、萼が花弁と全く同じ色、形に変形しているのです。
いわゆる八重咲きの花は雄しべが弁化して花びらになるのがふつうですが、
クルメツツジの場合は、それとは違うメカニズムで花弁の多重化が起こっているわけです(写真:大阪府立大学(2000.4.25))。
ところで、クルメツツジには花弁がまったく二重にならない品種もたくさんあり、 また二重咲きになる品種でも、一本の株の中で一重咲きと二重咲きが混じっている場合もよく見かけます。 このような場合、二重咲きのものには萼がありませんが、一重咲きのものにはちゃんと緑色の萼があります。 こんな花を見ていると、ちょっとしたきっかけで緑の萼になったり色鮮やかな花弁になったりできるという、 植物のもつ潜在能力の大きさに感心させられます。