松飾り、門松というふうに、松という樹木にはなんとなく新鮮なひびきが感じられます。門松は本来正月の神祭りの祭場であることを示す標識であり、また、
年神を迎えるための憑り代(よりしろ)であろうと考えられていますが、
そんなことが一種神聖な、改まった雰囲気を与えているのかも知れません。
とくに大阪の住吉大社では神社では必ず見られるサカキが少なく、そのかわりに小さなマツが社殿の回りにたくさん植えられることがありますし、巫女さんの髪飾りにもマツが使われています。
日本には何種類かの松がありますが、われわれにとって最も身近なものは 二葉性のアカマツとクロマツです。この両種は本州の北端から四国、 九州を経て屋久島にまで分布し、それより南、奄美大島から琉球列島にかけては、 同じ二葉性のリュウキュウマツが分布しています。
マツの種子の発芽には光を必要とし、しかもガラガラにやせた土地でもよく成育しますから、
火山の泥流の上や森林の伐採あとなどには松林が成立しやすく、
全国いたるところの低山で松林を見ることができます。
典型的なアカマツとクロマツは、葉の色や堅さ、樹肌の色などで明らかに違っており、 また、その分布もアカマツがやや内陸性、クロマツが海岸性というふうに多少違いがあります(右写真;アカマツ(神戸森林植物園(2002.8.31))。 しかし、実際には両者の中間的な性質をしめす個体がかなりあり、 アイグロマツとかアイアカマツなどとよばれています。もう亡くなられましたが、 メタセコイアの命名者として有名な三木茂先生が、アカマツとクロマツには決定的な区別点は何もないから、 両者を別種として区別する必要はないというようなことを言われていたことをよく覚えています。
アカマツもクロマツも太い枝のまわりに2枚セットになった松葉がきれいにらせん状にくっついています。 この、ふつうに松葉といっているものは、実は植物学的には2枚の葉をつけた枝(短枝) なのです。枝であるかぎりその先端には芽があるのですが、通常この芽が成長することはなく、 2~3年のうちに枝(松葉)ごと落ちてしまいます。ところが、春先に太い枝(長枝) をハサミでぷつんと切ってやりますと、本来なら休んだままで大きくなることのない 短枝の芽が動きだし、2、3ケ月の間に立派な枝を伸ばしてきます。 下にのせた2枚の写真は、このように太い枝(長枝)の先端を切ったところ、 残った枝の短枝(松葉のところ)から新しく長枝が発達して来たようすをしめしたもので、 同じ研究室にいた前中久行さんが写したものです。 松葉が本当は枝だといわれてもなかなか信じがたいものですが、 こうして本当に枝になってくるのを見ると、なるほど確かに枝だということが分かります。
日本のマツ属にはアカマツ、クロマツのほかゴヨウマツ、チョウセンマツ、 ハイマツなど何種類かがありますが、いずれも5枚の葉をもつ五葉性のマツです。 これらの葉がいずれも短枝に束生したものであることはアカマツやクロマツと基本的に同じです。 日本のマツの場合、アカマツ、クロマツの葉には維管束(道管とふるい管がセットになったもの) が2本あるのに対し、他の五葉性のマツの葉には維管束が1本しかなく、 形態的にはかなりちがっています。また、マツの仲間にはダイオウマツやハクショウのように3(~4)本の葉をもつものがありますが、日本には自生していません。
アカマツとクロマツの主な区別点
葉 | 樹肌 | 冬芽の鱗片 | |
アカマツ | 緑色で細く柔らかい | 赤褐色 | 赤褐色 |
クロマツ | 濃緑色で太く堅い | 黒灰色 | 灰白色 |
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右:短枝に形成されつつある新しい長枝(芽)のクロ-ズアップ(いずれも前中久行氏撮影(1979年))