まだ中学生の頃、わたしは八尾市龍華にある鉄道官舎に住んでいましたが、 少し広い裏庭があって父親がクチナシを1、2株植えていました。 毎年、梅雨時分に白い花を咲かせて強い匂いを放ち、秋には立て筋の目立つ独特の形をした実がなり、 割ると鮮やかな赤黄色のタネがたくさん出てきました。 当時はろくに木の名前を知りませんでしたが、梅雨空と匂いと色が一体に結びついて、 クチナシだけは最初に名前を覚えました。大学に入ってクチナシの学名を知り、 ジャスミンのような、という種小名がついているのを知って、うまくつけたものだと感心したものです。
ところで、ひとくちにクチナシといっても、葉や花の形、大きさにかなりの違いがあります。
一番目立つのは葉が大きく花も大輪で八重咲きのものです。
さらに葉は同じ位ですが一重のもの、さらに葉も花もやや小型のものなどがあって、オオヤエクチナシ、
ヤエクチナシ(写真左:堺市白鷺町(2000.6.26))、クチナシ、コリンクチナシなどとさまざまな名前でよばれています。
一般に野生種をコリンクチナシ(基本種)、栽培種をクチナシとして別の変種とすることがありますが、
中間的なものが多く、最近はこの区別もしなくなりつつあるようです。
ただし、葉も花も明らかに小さいコクチナシはクチナシの変種(var. radicans)とされています(写真右:大阪府立大学(2000.6.26))。
クチナシやコクチナシの果実の鮮やかな黄橙色は昔から染料として利用されてきました。
とくに、食べても害がありませんので、栗を煮たり黄色い染め御飯を作ったりするのに用いられました。
さらに果実の干したものは漢方で山梔子(さんしし)とよばれ、他の生薬と配合して消炎、止血、解熱、
沈静薬、眼科や耳鼻科の炎症、化膿、黄疸などさまざまな症状に用いられます(右写真:西宮市北山緑化植物園(2011.11.13))。
クチナシ(口無し)という名前は、果実が熟しても割れないからだといわれますが、 なんとなく説得力に欠けるように思います。また、碁盤や将棋盤の脚はクチナシの実をかたどり、「口無し」をしめすそうですが、これには第三者の口出しを戒める意味合いがあるそうです。細かいことを言えばクチナシの実は六角形ですが碁盤や将棋盤の脚は八角形です。これは、日本人は「八」という数字に様々な意味を見出し、聖なる数、最高位の数と考えていることの表れだとされています。