コノテガシワ  Thuja orientalis

コノテガシワ(大阪府立大学:1999.8.7)

コノテガシワ(大阪府立大学:1999.8.7)

ヒノキ科* クロベ属 【*APGⅢ:ヒノキ科コノテガシワ(Platycladus)属】

Thuja:ある種の樹脂の出る木の古名 orientalis:東方の

コノテガシワは「児手柏」で、ヒノキに似た平面的な葉(本来は枝というべきもの)がちょうど手のひらを立てたように垂直についているという大変特異な形をした木です。ただ、ヒノキやサワラとちがって、うら・おもての形態的な区別が不明瞭です。中国原産で、向こうの図鑑には新疆、青海地区を除いて全国に分布し、公園樹や造林樹として常見すると書いてあります。日本ではもっぱら公園樹や庭園樹として使われ、造林に使われることはないようです。大阪府立大学:1999.8.3

コノテガシワには大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは一本の主幹があって、枝が比較的少なく、背が高くなるタイプで、大きいもので高さ10~20mになります。もう一つのタイプは比較的背の低い潅木で、地際からたくさん枝分かれしてどれが主幹か分からず、また枝や葉の密度が高く、卵形またはやや広い円錐形の樹形をしたものです。成長が遅く、樹形もコンパクトなため、洋風の庭木として好まれます。たくさんの園芸品種があり、例えばセンジュ(千手)や葉が美しい黄色をしたオ-レア・ナナなどがよく知られています。

大阪府立大学:1999.8.7 ところで、「柏」という字は、本来、コノテガシワ(または類似のヒノキ科(中国名:柏科)の樹木)をさし、柏餅のカシワ(ブナ科)とは全く別のものです。

コノテガシワが日本に導入されたのは江戸時代の元文年間(1736~1740)とされています。ただし、万葉集巻16には、
 「奈良山の児の手柏の両面(ふたおも)にかにもかくにも侫人(ねじけびと)の徒(とも)
という、裏おもてはっきりしないコノテガシワのように、どちらにもうまいこという腹黒い人間(侫人(ねじけびと))をそしる歌があり、また、鎌倉時代(1304年頃)に編さんされた夫木集(ふうぼくしゅう)にはコノテガシワを読み込んだ和歌がいくつかあるそうで、この名前をもった植物が古くからあったことは確かです。ただ、和歌の内容と植物の特徴が一致しない面も多く、必ずしも今のコノテガシワを歌ったとは断定できません。コノテガシワの伝来が本当に18世紀だとすると、もともとのコノテガシワが一体どんな植物だったのか、よく分からないそうです。日本と大陸の古い交流の歴史を考えると、江戸時代に渡来というのはいかにも最近すぎて、私には信じられません。/