キリ  Paulownia tomentosa

キリ(長居植物園(大阪市住吉区):2004.4.29)

キリ (長居植物園(大阪市住吉区):2004.4.29)

ゴマノハグサ科* (あるいはノウゼンカズラ科*) キリ属 【*APGⅢ:キリ科】

Paulownia: 人名から  tomentosa: 密に毛の生えた

私がまだ学生の頃、岸和田市側から和泉葛城山を越えて、粉河までおよそ30kmを歩いたことがあります。私の一生の中でも多分1~2番目に長い距離を歩いた日で、しかも和歌山を回って大阪へ帰りつくのに随分時間がかかったことと共に、初めてキリの花をみた日という意味で、今でも鮮明な記憶が残っています。

バスのタイミングが悪く、塔原のはるか手前から歩き出し、5~6km歩いてやっと山ののぼりにかかったとき、地面一面に紫の花が落ちていました。見上げると、余り大きくない木の樹冠全体が花につつまれていました。一見、ゴマの花のような筒形の花で、もっと大きく、紫の花弁に黄色の斑点が見事な美しさでした。名前が分からなかったので学生版牧野植物図鑑をとりだし、花の形を頼りにまずゴマから探しだし、比較的簡単にゴマノハグサ科の中でキリにたどりつきました(最近の図鑑では、種子に翼があることなどを根拠にノウゼンカズラ科に分類されることも多いようです)。

日本のキリは中国原産で、古く朝鮮半島を経て渡来したものと考えられています。多くの文献ではキリのほかにタイワンギリやシナギリなどが別種として記載されており、材質が日本のキリに比べて多少劣るとされています。しかし、これらの種間の区別は不明確で分類が難しいとされ、私自身、きちんと区別することは出来ません。

キリは成長が早く、そのため材は柔らかく、大変軽くなっています。比重は0.3で、日本の木材の中ではもっとも軽いものです。辺材、心材の区別がなく、白い材は磨くと美しい光沢があります。また材は通直で狂いがすくなく、さらに湿気を通さない、割れない、燃えにくいなど木工材として優れた性質があります。そのため、建具や障子の腰板などの建築材、タンス、長持ち、机、本箱などの和風の家具類、楽器の材料、彫刻材、下駄材、絵画用木炭などきわめて広い用途を持っています。

右のグラフに示した日本特用林産振興会の統計によりますと、戦後の桐材の消費量は2000年に最大に達しましたが、その後急激に減少し、2004年にはわずか1万6000トンに落ち込んでいます(ただし、2004年の数字については、最大の輸入相手国である中国が原木の輸出を禁止したことが関係している可能性があり、本当に国内での桐材の需要が減少したことの反映かどうかは即断できないかもしれません。(なお、最近のDataについては上記振興会のサイトをご覧下さい。))。

グラフには出ていませんが、戦後の日本における桐材の生産量が最大だったのは1959(昭和34)年で、約8万7000トンでした。しかしそれ以後生産量は急激に減少し、現在はわずか2000トン足らずしかありません。

先の図から分かるように、現在、国内で消費されるキリ材はほとんど輸入に頼っていますが、そのほとんどが中国からのものです。十数年前には日本のキリをアメリカや南米に持ち込んで栽培したものを輸入したことがあるそうですが、今は、微々たる量に過ぎないと言われています。