キブシ  Stachuurus praecox

キブシ(六甲山:2001.4.7)

キブシ (六甲山:2001.4.7)

キブシ科* キブシ属 【*APGⅢ:キブシ科】

Stachuurus:stachyus(穂)+oura(尾)  praecox:早期の

木の中には、一年のごく短い期間だけ私たちの目を強く引きつけるのに、 その時期を過ぎてしまうと、一体どこに消えたのかと思うほど目立たなくなる ものがあります。キブシもそんな木の一つといえるでしょう。

キブシは高さ2~4mくらいの雌雄異株の落葉性低木で、道ばたや川ぞいの、 やや荒れた、攪乱を受けやすい環境によく生えています。早ければ2月ごろから 4月ごろまで、葉のない去年の枝から、長さ数cm、ときには10cm近いひも状の 花穂(かすい)を一列にぶらさげ、小さな、うす黄色の花を咲かせます。 そのようすは、かんざしにつけられた下げ飾りを連想させますし、夕方、 薄暗くなった谷筋でこの木に出会いますと、そこだけほのかな明かりが ともったような印象をうけます。キブシが早春を代表する木の一つとして 人々に親しまれているのも当然という気がします。

キブシという名前は、むかし、女性が歯を染めるのに、多量にタンニンを含む この木の果実を乾燥させて粉にし、ヌルデ五倍子(ふし)の代用にしたためと いわれています。一方、関東地方ではキフジ(黄藤)という名前で呼ばれることも 多いそうで、これは、枝から垂れ下がった花穂がフジを連想させるためでしょう。

キブシは雌雄異株で、花穂をたれる姿はどちらもよく似ていますが、 雄株の方がやや黄色が濃く、なれると色の薄い雌株と容易に区別できるそうです。 しかし、これらの花も、気温が上がって葉が展開しはじめるとその使命を終え、 雄花の方は少しさわるだけで花穂ごと落ちてしまいますし、雌花の方は、 数珠状につらなった緑色の果実をつけ、これもやがて落ちてしまいます。

枝から垂れ下がった花穂や果穂を見てこの木をおぼえますと、目立った特徴のない 葉をつけた夏の姿とのギャップが大きく、まるで関係のない木のように見えてしまいます