イズセンリョウ  Maesa japonica

イズセンリョウ(奈良公園:2000.5.13)

イズセンリョウ (奈良公園:2000.5.13)

ヤブコウジ科* イズセンリョウ属 【*APGⅢ:サクラソウ科】

Maesa:同属のある種に対するアラビア名(Maass)から japonica:日本の

イズセンリョウは箕面などでもときどき見かけますから、特別珍しい木というわけではありません。しかし、奈良公園の「ささやきの小径」や、とくに春日大社から新薬師寺に向かう道沿いに密生するイズセンリョウを見てはじめてこの植物をおぼえたとしますと、他の場所で見るイズセンリョウは、なにか違った植物のように見えます。それほど奈良公園にはこの植物がたくさん群生しています。

奈良公園でとくにイズセンリョウは多いのは、シカがこの木を食べないからです。シカが食べない以上、シカにとって何か有毒な、少なくとも、とてもまずい成分が含まれているはずです。日本のある薬用植物図鑑によりますと、果実にはメサキノンと呼ぶ成分が含まれ、インドでは条虫駆除に用いられると記載されておりますから、茎や葉にも何か特有の成分が含まれていると考えるのがよいでしょう。 (最近、奈良公園で数年前からシカによるイズセンリョウの採食が確認されていることが報告されました。(鳥居ほか, 2007))

イズセンリョウに代表されるように、奈良公園にいるシカがその植物の枝や葉を食べるかどうかは、奈良の林床植生、ひいては森林の再生のしかたにに大きな影響をあたえているはずです。奈良公園の森林で、ナギ、アセビ、ナンキンハゼ、ワラビなど、シカの食べない植物が異常に多い状況は、たとえば枚岡や箕面の森林とは大きく異なっています。

大阪や奈良のような温暖多雨の気候条件にある森林では、本来、たくさんの種類の木や草が一緒に生えるものなのですが、奈良公園の林床のように、特定の比較的数の限られた種類が異常にはびこるということは、とりもなおさず、バランスのとれた自然では本来起こらないような、何か特別な事情(ここではシカの摂食圧)があることを意味しています。

奈良公園に限らず、金華山や宮島などシカの摂食圧が異常に高いところでは、奈良公園と同じように林床植生の貧化がみられますが、最近は大台ヶ原山でもシカの個体数が異常に増え、それによる森林植生への影響が深刻な問題となっています。