イトザクラ (シダレザクラ) Prunus spachiana f. ascendance

シダレザクラ(京都市円山公園:2000.4.13)

イトザクラ(シダレザクラ)(京都市円山公園:2000.4.13)

バラ科* サクラ亜科サクラ属 【*APGⅢ:バラ科サクラ(Cerasus)属】

Prunus:スモモのラテン名 spachiana:不明(人名?) ascendance:上昇する

京都の春といえば、平安神宮や円山公園のシダレザクラを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。白色から濃い紅色まで花色はさまざまですが、 傘型にたれた枝にたくさんの花をつけたようすは見事というほかありません。 このほか、京都植物園や植物園西側の鴨川ぞいなど、京都市内の各地にたくさんのシダレザクラが植えられていて、人々を楽しませています。 また、全国的に見ますと東北地方などに大きなシダレザクラがあって、たとえば、角館(秋田県)のシダレザクラ、伊佐沢(山形県)の久保ザクラ、 福島県の三春滝ザクラなどは国の天然記念物に指定されています。

シダレザクラについては、多くの植物図鑑でまずイトザクラの名を挙げ、その別名としてシダレザクラを採用しています。 平安時代に「糸桜」の名で和歌にうたわれるなど、名前としてはイトザクラの方が古いのかも知れません。 私たちにはシダレザクラの方が耳になじんでいますが、どちらもこの木の特徴をよく表した名前だと思います。 また、花色のとくに濃い「紅枝垂」や、その上さらに八重になった「八重紅枝垂」など、同じシダレザクラの中にも多くの品種があります。 一重のものはよく結実し、発芽もよいようですが、これから得た実生はしだれの程度や花色に変異が多く、親のとおりにはならないそうです。

シダレザクラは、植物学的には各地に自生するエドヒガン(江戸彼岸:下写真左)の枝垂れ系品種という位置づけになります。 エドヒガンはやや小振りの花をつけ、萼筒のところが少しふくらんでいます(下写真右)。 日本に自生するおよそ9種のサクラの原種の中でも寿命が長く、また、大きくなることでも知られており、 たとえば、日本最大のエドヒガンといわれる山高神代ザクラ(山梨県)をはじめ、 盛岡の「石割桜」や岐阜県根尾谷の「薄墨桜」など国指定の天然記念物になっているものが多く、 実際にごらんになった方も少なくないと思います。

エドヒガン(大阪府立大学:2000.4.4) エドヒガン(大阪府立大学2000.4.4)
(写真:大阪府立大学 2000.4.4)