イスノキ  Distylium racemosum

イスノキ(伊居太神社(池田市:2008.5.25)

イスノキ (伊居太神社(池田市:2008.5.25))

マンサク科* イスノキ属 【*APGⅢ:マンサク科】

Distylium:花柱が2つある racemosum: 総状花序の

イスノキはもともと暖地性の常緑広葉樹で、近畿地方では三重県や和歌山県の海岸に近い暖かな山地に分布するので、大阪近くの山で自生を見ることはありません。枚岡神社には社殿の前の石段のところに少し大きなイスノキがありますが、もちろん人間が植えたものです。また、公園などでもかなりよく植えられています。

イスノキを特徴付けているのは、何と言っても葉にできる特有の形をした虫えい(虫こぶ)でしょう。葉や枝の組織の中にハチやアブラムシの一種が寄生し、その刺激を受けて組織が異常に発達してコブのようになる例はそれ程珍しいことではありませんが、それでも、イスノキほど必ずといっていいほど虫えいができる例は多くありません。葉の細かな形態よりも、この虫えいだけを手がかりにイスノキだと同定できるほど頻繁に現れます。

まず目立つのは、葉にできた直径5~10mmくらいの半球状で淡黄緑色をした多数の虫えいです。これは、4月頃出てきた新しい葉にヤノイスアブラムシが寄生してできるもので、虫えいの中には無性的に繁殖した多数の成虫や幼虫がいます(受精せずに雌の体内で卵が孵化し、幼虫の形で生まれてくる.。胎生:全部雌となる)。そして7月上旬ごろ虫えいの先端が裂けて、翅(はね)を持ったアブラムシが中間宿主のコナラへ移住し、10月頃イスノキへ戻って産卵します(この時には雄と雌が生まれて交尾します)。

イスノキ虫えい(伊居太神社:2008.5.25) イスノキには上の例と全く違った形の虫えいも頻繁にみられます。それは葉全体が右の写真(伊居太神社:2008.5.25)のようにイチジク形の虫えいになったり、フットボ-ル形の虫えいになったりするもので、前者はイスノフシアブラムシ、後者はモンゼンイスアブラムシに寄生されて起こります。いずれも、4~5月、新芽が出てきたときに寄生されて虫えいとなり、中のアブラムシは10月頃穴を開けて中間宿主アラカシに移住して大繁殖し、アラカシに被害を与えます。これらのアブラムシがイスノキに戻って産卵するのは4月頃です。この2種類の虫えいは大変硬く、アブラ厶シが出た跡の小さな穴を利用して笛にして遊びます。その音を真似てイスノキのことをヒョンノキなどとも呼んでいます。