イヌガシ  Neolistea aciculata

イヌガシ(奈良公園:2005.3.30)

イヌガシ (奈良公園2005.3.30)

クスノキ科* シロダモ属 【*APGⅢ:クスノキ科】

Noeolistea:neo(新しい)Litsea(ハマビワ属) aciculata:痩針形の

イヌガシという名前を聞いただけでは、なにか、材質の悪いカシというイメージが浮かびますが、実は、イヌガシはドングリのなるブナ科のカシ類とは縁の遠い、クスノキ科に属しています。大阪では、枚岡や箕面、高槻など、各地の山の中でときどき見かけます。また、なぜか、奈良公園には非常にたくさん生えています。

イヌガシがクスノキ科の樹木であることは、枝先にやや輪生状についているその葉を見れば、クスノキやヤブニッケイに似て、3本の非常に目立った葉脈があることから見当がつきます。しかし、葉をもんでもクスノキのような強いショウノウの匂いはなく、クスノキ属とは別なシロダモ属に分類されています。

イヌガシは、ふつう高さ数メートルの比較的小さな木が多いように思いますが、中にはかなりの高さになっている場合もあります。同じ属のシロダモは葉が大きくて、裏が白く美しく、また、冬にはアオキのような真っ赤な実をつけて目立つのに対し、イヌガシの方は葉はかなり小さく、葉裏の白さも薄汚れてきたないことが多いうえ、秋に実る果実も黒紫色であまり目立ちませんから、そんなに魅力的な木とは思えません。ところが、この木は冬から早春にかけて枝に群がるように赤紫色~赤褐色の花をつけ、思いがけない美しさを見せます。わたしは何年も前に、奈良公園でこの花の美しさに出会って以来すっかりイヌガシのフアンになり、寒い時期に山へいくとこの木が咲いていないか探すのが楽しみになりました。

いろいろな本によりますと、イヌガシの材は器具材や薪炭材として利用されたそうです。また、暖地では、この赤い花の美しさを愛でて庭木や生け垣に利用することがあるそうですが、わたし自身はこのような例に出会ったことはありません。