イヌビワ  Ficus erecta

イヌビワ(大阪府立大学:1999.8.7)

イヌビワ(大阪府立大学:1999.8.7)

クワ科* イチジク属イチジク亜属 【*APGⅢ:クワ科】

Ficus:イチジクのラテン古名  erecta:直立した

イヌビワはイチジクの仲間で、この属に共通する特徴として、葉柄の付け根のところに枝を一周する筋(托葉痕:托葉の落ちたあと)がついていること、植物体を傷つけると傷口から白い乳液が出ることが上げられます。この仲間は、本来、熱帯から亜熱帯が生育の中心地で、世界におよそ900種もあるとされています。わが国でも、たとえば沖縄の石垣島や西表島などではアコウ、ガジュマル、ギランイヌビワなどたくさんの仲間が生えています。しかし、本州も大阪まできますと、自生できるものは落葉性(ときに半常緑性)のイヌビワのほか、匍匐性常緑樹のイタビカズラ、ヒメイタビなどほんの数種に限られます。しかも、これらが生育できるのも西日本の低標高地に限られ、たとえばイヌビワの場合、標高およそ600m以上の範囲にはほとんど生えていません。このことから、冬の寒さがイヌビワの分布を制限していることは明らかです。

イヌビワは雌雄異株でイチジクの仲間ですから、枝の葉柄の付け根ににイチジク形の果実(花嚢(のう)、果嚢)をたくさんつけます。袋状に包み込まれ、外から見えない花から花へ花粉をやりとりするのはイヌビワコバチと呼ばれる昆虫です。つまり、雄株につく雄花嚢の内側には、入り口に近いところに雄花があり、奥の方の花の大部分は虫えい花です。まず、イヌビワコバチは雄花嚢の中に入り、奥の方の花の柱頭に産卵します。幼虫が孵化するとその刺激で花の子房が肥大して虫えい花となり、幼虫はこの花を食べて生長します。やがてコバチが成虫になって花嚢から飛び出すころ、入り口の雄花も成熟し、ハチの体に花粉をつけて雌花嚢へ運んでもらうというわけです(雌花嚢には虫えい花はありません)。

イヌビワの雄果は食べられませんが、雌果の方は黒紫色に熟し、甘くて食べられます。形はビワに似ているのに味が劣るので、イヌという劣称がつけられたといわれます。

ホソバイヌビワ:京都府立植物園(2012.5.5)ホソバイヌビワ:枚岡公園(2006.5.17) なお、イヌビワには葉の幅が目だって狭い「ホソバイヌビワ(Ficus erecta f. sieboldii)」という品種があり、枚岡公園などでは比較的よく見かけます(写真左:枚岡公園(2006.5.17)、写真右:京都府立植物園(2012.5.5))