イイギリ  Idesia polycarpa

イイギリ(大阪市立大植物園:2005.11.20.)

イイギリ(大阪市立大学理学部付属植物園:2005.11.20)

イイギリ科* イイギリ属 【*APGⅢ:ヤナギ科】

Idesia :人名から polycarpa :沢山の(ploy)+果実(carp)

イイギリは、晩秋から初冬にかけて、真っ赤な実をちょうどブドウの房のように 枝からぶらさげる様子が大変美しく、一度見たら一生忘れないのではないかと思うほどです。 別にナンテンギリという名前もありますが、実の赤さや大きさ、房についているようすなど、 この名前も実体をよくあらわしているように思います。

イイギリの魅力はもちろん美しい実にあることはいうまでもありませんが、 木の姿そのものも端正な美しさをもっています。すなわち、灰白色の なめらかな樹肌をもった主幹がまっすぐ立ち、ところどころから数本の太い枝が 放射状にでて、規則正しい樹冠を作ります。また、ながい葉柄をもった葉も美しく、 表面は緑色、裏面はやや白みをおび、葉柄の上面は赤みをおびています。 そのため、庭木や公園樹に適し、ときに街路樹として植えられます。 しかし、実際はそれほど頻繁に見かけることがないのは、一つには雌雄異株で、 すべての個体が実を付けるわけではないため、結実を期待する目的には安心して使えないこと、 ひとつには害虫(鉄砲虫、カミキリの幼虫)に案外よわく、材に穴を開けられて寿命がそれほど 長くないことが原因しているかもしれません。

イイギリの分布図(林弥栄:有用樹木図説(林木編)より)をみますと、西日本を中心に日本の暖帯地域に広く分布し ていることが分かりますが、実際に山で見る機会はそれほど多くなく、私は50年以上も前に九州の水俣で 照葉樹林の調査をしていたときにはじめて見て以来見る機会はありませんでした。 しかし、十数年前に和泉葛城山の牛滝林道の道沿い、かなり標高の下がった谷沿いに 数本の大きなイイギリが赤い実を付けているのを見つけました。ただ、 まわりにはほかの木がいっぱい茂っていて、これらのイイギリが順調に次の世代を残していけるか、 心配なところがあります。なお、大阪府植物目録によれば、和泉葛城山のほか岩湧山、妙見山、池田 などで採集の記録があります。