イチイガシ  Quercus gilva

イチイガシ(奈良公園(1999.8.12)

イチイガシ (奈良公園(1999.8.12)

ブナ科* コナラ属アカガシ亜属 【*APGⅢ:ブナ科】

Quercus:ナラの仲間 gilva:赤みがかった黄色の

カシの仲間は種類も多く、しかも、アラカシとアカガシ、シラカシとウラジロガシ、アラカシとシラカシなど、お互い名前や形のよく似たものがあって、なかなか同定の難しいものです。そんななかで、イチイガシだけは一度特徴を覚えてしまえば、ほぼ確実に同定できるものといえましょう。

イチイガシの葉の裏(奈良公園(0999.8.12) それは、イチイガシでは、葉の裏に白褐色の綿毛が密生していて、それがずっと後まで残るという際立った特徴を持つのに対し、他のカシ類では葉の裏が毛で覆われることが少ないからです。ですから、イチイガシの場合、木についた葉に手が届かなくても、落ち葉を拾えばイチイガシかどうかが分かります(実はアラカシの場合、葉のウラには白い毛があって、成葉になっても残っているのですが、それは大変短く、虫めがねで見ないとわからないくらいです)。ただ、葉の表面についていえば、ごく若い時に綿毛で覆われるカシはかなりあり、イチイガシのほかアカガシ、アラカシ、ツクバネガシ(コナラ亜属)などがあります。しかしこれらの毛はほとんどすべてすぐにとれてしまうので、カシ類の成葉の表面は、ふつう無毛となっています(右写真:綿毛で覆われたイチイガシの葉裏(奈良公園 1999.9.21))

イチイガシは日本(特に九州)の照葉樹林の重要な構成樹種ですが、ほかのカシ類にくらべ、やや暖かい方に分布の中心があるようです。

イチイガシ大木の樹幹 2011.3.13 ところで、「イチイ」という名前は、木の大きさや材の良さなどから、位階の「一位」をあらわしている、と教わった記憶があります。たしかに、奈良公園を歩くと巨大な幹を持ったイチイガシが随所にあり、「一位」の位階を受けるにふさわしい風格を持った木だという印象を持ちますが、たとえば牧野の植物図鑑では意味不明とあり、また、上原敬二氏の樹木大図説には、「イチヒとは 最火、即ち、著しい火の意と伝へる」とあり、伊勢外宮の御饌は必ずこの柴を使う、とも書いてあります(右写真:イチイガシ大木の樹幹 (奈良公園 2011.3.13))

この木がそれほど良く燃えるのかどうかは、まだテストする機会がありません。