フユイチゴ  Rubus buergeri

フユイチゴ(鉢ヶ峯(堺市):2003.11.05)

フユイチゴ (鉢ヶ峯(堺市):2003.11.5)

バラ科* キイチゴ属 【*APGⅢ:バラ科】

Rubus:赤(果実の色から) buergeri:人名から

いつ、どこでだったか忘れましたが、簡素な花器に2、3の野草とともにフユイチゴが活けられていたのをおぼえています。道ばたで見るフユイチゴは地面をはいつくばり、茎にも葉うらにも毛が多く、また、果実も特に大きいわけではありませんからそれほど魅力的とも思わなかったのですが、花器から自然に垂れ下がったそのフユイチゴは、光沢ある濃い緑の葉と赤い実のコントラストが野趣にあふれて美しく、活けた人の心まで伝わるように思いました。

フユイチゴは木とも草ともつかないようなバラ科キイチゴ属の植物で、ふつうは木本植物として分類されますが、ときには検索入門野草図鑑1(保育社)のように草本植物として扱われることもあります。茎は高さ20~30cmで直立または斜上しますが、別に長さ2mほどの匍匐茎を地面に這わせます。キイチゴ属植物の茎には鋭いトゲが多いものですが、フユイチゴの茎にはラシャ状の毛が密生するもののトゲは小さく、数もそれほど多くありません。夏の終わりから秋にかけて白い花を咲かせ、冬に果実が赤く熟します。フユイチゴの名前はこれに由来しますが、別名カンイチゴも同じ意味あいといえるでしょう。

キイチゴ属にはナガバモミジイチゴやニガイチゴなど非常にたくさんの種があり、おもに北半球におよそ 700種、日本にはおよそ80種があるといわれています。もっともこの属の植物は種間雑種をつくりやすく、中間的な形態をもつものが多くて分類が難しいとされています。

バラ科やマメ科のように、ひとつの科の中に木も草も含むようなグループは、木ばかりからなるグループにくらべ、進化のより進んだ段階にあると考えられています。キイチゴ属のように変異が多く、雑種をつくりやすいグループというのは、いままさに種の分化が進みつつあることをしめしていると見てよいでしょう。