今はもう無くなって何年もたってしまいましたが、南海高野線の中百舌鳥駅と白鷺駅の中ほどに 若鷹寮という南海ホークスの選手寮がありました。その入り口に高さ3mほどの大きな フヨウの木があり、毎年、夏の終わりぐらいから白い花を枝いっぱいに咲かせていました。 この花は、朝に見ると純白ですが、午後にはややしおれて淡いピンク色となり、夕方にははっきりとしたピンク色になりました。翌朝には丸く小さくしぼんで紅桃色となっており、 いつの間にか地面に落ちてしまいます。この木の花色は時間とともに白からピンクへ変化するのです。
フヨウは日本の九州・四国、台湾、中国などに自生するアオイ科の落葉低木で、
幅広い大きな葉には短毛が密生し、ふつう5つの浅い鋸歯があります。
本来の花色は桃色で、最初に述べた若鷹寮のものは白花品種と思われます。
フヨウには「酔芙蓉(すいふよう)」とよばれる有名な品種があります。
これは白花品種がさらに八重に変化したもので、白面の美男(美女?)がお酒を飲み、
時間とともに顔色が赤くなっていくのにたとえたものです。
昔は、有名なわりに見る機会が少なかったのは、八重咲きでタネができず、
品種としても樹勢が弱いからかも知れません。しかし、最近は見る機会が格段に増えたように思います(右写真:酔芙蓉(京都府立植物園2010.10.23))。
ふつうのフヨウの花期が終わると、乾いたサクのなかにたくさんの種子ができます。 種子は淡褐色の毛に被われていて、ふつう硬実(こうじつ)化しており、そのままでは吸水できず、 発芽が非常に困難です。そこで、かみそりの刃などで種皮を傷つけてから播きますと、 吸水が容易になって発芽率が飛躍的に高くなります。若鷹寮のムクゲからとった種子を何年も 前にそうして発芽させ、今も何本か生き残って高さ1mぐらいに育ち、毎年花を咲かせています。 そして、時間とともに花色が変化する性質もそのまま現れています(下の写真:大阪府立大学 1999.8.23)
アオイ科の植物は、本来、熱帯・亜熱帯に分布の中心があり、フヨウも、大阪よりもっと 北の寒い地方では地上部がほとんど枯れ込み、翌年、株もとから新しく枝を出してきます。 一方、もっと暑い熱帯、亜熱帯地方では常緑性をもつそうです。