ヒサカキは、大阪近辺の低山を歩いていて非常によく見かける雌雄異株の常緑性低木です。私が大学に入り、箕面や奈良で野外実習を受けたとき、ほとんど一番最初に教わった木だったと記憶しています。ただ、慣れないうちはアセビやシャシャンボなど、やはりごくふつうにある他の木との区別がつかず、覚えるのにずいぶん時間がかかった記憶もあります。なんとなく、この木の特徴がつかみにくかったのです。
そのころ、神様に供える「サカキ」という木があることは知っていましたから、ヒサカキとは、すなわち「非サカキ」だろうと直感的に思いましたし、また、そのようにも教わったのですが、実際のサカキと比べると樹形はもちろん、葉の形も大きさも全く違い、わざわざ「これはサカキに非ず」と宣言することもなかろうという気がして、変な名前だと思っていました。
しかし、時間がたつにつれて手にする図鑑類や参考書もふえ、わたしのもつこの木に関する情報が増えてきますと、ヒサカキとは、実はヒメサカキ(姫サカキ)のことで、本来のサカキに比べ小型であることに由来する、ということが分かってきました。そして、なによりも多くの地方でこの木が神聖なものとして取り扱われ、神様や仏様に供えられていることを知りますと、ヒサカキとは姫サカキだという説の説得力はとても大きくなりました。
この木のどこが神聖なのかについては、枝の先端にある小さな芽が鎌形に曲がり、ちょうど勾玉(まがたま)を連想させるからだと書いた本がありましたが、そういえばサカキの枝先の芽も勾玉のように鎌形に曲がっています。昔の人はこんな細かなところにまで意味を見つけたのかと、ヒサカキの芽をみるたびに感心してしまいます。それと同時に、この特徴が他の木、例えばシャシャンボなどと見分けるいい手がかりになりました(写真:ヒサカキ(左)とシャシャンボ(右)(2000.11.23:大阪市大理学部付属植物園))。
ところで、観察会をしますとこの木をビシャとかビシャギと呼ぶ人が少なくありません。広辞苑や大辞林にはヒサカキの別名としてヒサギが収録されていて、名前の類似性が感じられますが、上原敬二先生の樹木大図説には60近くの異名が記載されており、この木がいかに人々に親しまれてきたかが分かります。
ヒサカキはしょっちゅう伐採を受ける里山の木の典型的なもので、切られてもすぐに芽を出す強い萌芽力をもっています。そのため、昔は薪炭木として利用されていましたし、いまでも庭木や生け垣としてよく使われています。