ヒノキ  Chamaecyparis obtusa

ヒノキ(奈良公園(1999.8.25)

ヒノキ (奈良公園(1999.8.25)

ヒノキ科* ヒノキ属 【*APGⅢ:ヒノキ科】

Chamaecyparis:(実の)小さいイトスギ obtusa:鈍形の、鈍頭の

ヒノキは日本特産の針葉樹で、福島県赤井岳、新潟県苗場山を北限とし、南は九州屋久島まで天然分布していますが、中部地方の山地、とくに木曽地方に多く生育しています。大変大きくなり、ときには直径2m、高さ30mに達することがあり、多くはモミ、ツガ、アカマツなど他の針葉樹や広葉樹と混交しています。

ヒノキ材の木理は通直で美しく、狂いがこない、耐朽、耐湿性がある、細工がしやすいなど、あらゆる点で優れた性質をもっているので、世界最良の木材の一つとされています。そのため、古来、大寺院や宮殿の建築には必ずといっていいほどヒノキが使われましたし、20年に一度、全てを作り替える伊勢の遷宮に際しても、社殿の造営には木曽のヒノキが使われます。庶民にとっても総ヒノキ造りの家屋を建てるいうのは最高のぜいたくに属します。こんな訳でヒノキはスギについで我が国でもっとも多く植林されている樹種で、スギよりは乾燥に強いため地味のよい尾根すじに植えられることが多く、そのことが木目の詰まったより良い材を作る結果になっていると思われます。

ヒノキは「火の木」という意味で、昔、きりもみで火をおこすときにこの木を使ったことに由来するという説があり、事実、伊勢神宮では今でもヒノキの木とヤマビワの木をこすり合わせて火を起こすそうですが、一方で古名「ひ」が何に由来するか分からないともいわれています。

サワラの気孔帯(万博日本庭園 2007.6.10)ヒノキの気孔帯(1999.8.25:奈良公園) ヒノキによく似た樹木にサワラがあります。両者は葉の裏を見たとき、白い気孔帯がヒノキではY字状(左写真:奈良公園 1999.8.25)、サワラではX字状(右写真:万博日本庭園 2007.6.10)になっています。これは、十字対生する葉の大きさが、ヒノキでは左右のものが大きくて上下のものが小さく、互いに密着しているのに対し、サワラでは左右上下であまり差がなく、枝から離れているためです。

両者にはたくさんの園芸品種があり、枝が長く伸び葉が小型化したスイリュウヒバ(ヒノキ)とヒヨクヒバ(サワラ)、オウゴンシノブヒバ(ヒノキ)とシノブヒバ(サワラ)など一見しただけでは母種がどちらか分からないものが多くあり、両者の近縁性をうかがわせます。