ヒムロ  Chamaecyparis pisifera var. squarrosa

ヒムロ(1999.8.15:京都府立植物園)

ヒムロ (1999.8.15:京都府立植物園)

ヒノキ科* ヒノキ属 【*APGⅢ:ヒノキ科】

Chamaecyparis:背の低いイトスギ  pisifera:えんどう(pisium)をつける  squarrosa:はりねずみ状

わたしがヒムロを最初に見たのは大阪市大の植物園に勤め始めた頃です。当時、安藤萬喜男先生にくっついて大阪市内の公園や学校を回り、大気汚染が樹木の生育に及ぼす影響を調査していましたので、その時どこかの学校か公園で教わったのか、あるいは植物園の「二ノ谷」に群植されているのを見て、あれは何ですかとたずねたのか、記憶は不確かです。ただ、直立した幹、青白くとがって痛そうな葉、ふところ枝に残る赤茶けたたくさんの枯れ葉、それに「氷室」を連想させる何となく冷たい名前、どれをとっても印象深い木でした。

ヒムロは、ヒノキによく似たサワラという木の1園芸品種で、公園や庭園などにときどき植えられています。サワラそのものには、たとえばオウゴンクジャクヒバとかヒヨクヒバなどたくさんの園芸品種があって、庭木や生け垣などによく使われていますが、これらの葉は原則的に小さな鱗状の葉をしていますので、たとえ枝が原種のように平面的な枝分かれをしていなくても、何となく類縁関係の近さを感じさせます。

しかし、ヒムロの場合、枝が平面的に枝分かれするわけではなく、また、葉が小さな鱗状になっているわけでもありませんので、これがサワラの仲間だとはとうてい分かりません。むしろ、山でよく見かけるネズミサシ(ネズ)に近いという印象を強くうけます。

実は、「ヒムロ」という名前は「ヒメムロ(姫榁:やさしいムロ)」から来ていて、ここでいう「ムロ」とはネズミサシの古い呼び名だそうです。その名の通り、ヒムロは一見、痛そうな葉を持っていますが、勇気を出して触ってみるととても柔らかく、名前の由来がなるほどと納得できます。ですから、わたしには葉の柔らかさが同定の大きなヒントになっています。

一部の枝がサワラに戻ったヒムロ:箕面市余野川:2008.1.16)ヒムロでは、ときどき枝の一部が本来のサワラに戻ることがありますので、ヒムロがサワラであることは間違いないのですが、十字対生したヒムロの針状葉はサワラの芽生えに似ていて、これは幼いときの形態が大きくなっても残っているためだとされています(右写真:一部の枝がサワラに戻ったヒムロ:箕面市余野川:2008.1.16)