ハナイカダ  Helwingia japonica

ハナイカダ(六甲高山植物園:2002.7.6)

ハナイカダ (六甲高山植物園:2002.7.6)

ミズキ科* ハナイカダ属 【*APGⅢ:ハナイカダ科】

Helwingia:人名(G. A. Helwing)から japonica:日本の

「花筏」という名前ひとつで、何かドラマができそうな気がします。花は永続するものではありませんし、筏も水の上を流れ去っていく。美しいけれど、はかない雰囲気に満ちています。ハナイカダという植物もそれにふさわしく、しっとり湿った山林の道ばたや谷沿いにひそやかに咲き、実を結び、いつの間にか実を落として、ごくありふれた潅木にもどっていく。いわば隠れ里の佳人の風情といえばあたっているかもしれません。

 

ハナイカダはミズキ科の潅木ですが、他のどんな植物とも際立って違うところは、その名前のとおり花が葉の中央にくっついて咲き、そこに実をつけることです。葉身を筏に見立て、筏に花を乗せた植物ということでこんな名前がつけられました。

葉の真ん中に花が咲くのは葉腋から出た花柄が葉の主脈と合着しているからです。葉がごく小さいときは葉の先端につぼみがついているように見えますが、大きくなるにつれて葉の中央に花が咲くように見えます。雌雄異株で、雄株では雄花が数個集まって、また、雌株では1~3個の雌花がそれぞれ葉の中央につきます。果実は1cmくらいのいびつな球形で、初め緑色ですが、やがて黒く熟し、小鳥が好んで食べます。新芽は大変 柔らかく、場所によってはママコナ、ママッコ、ヨメナなどといって山菜として人間が食べます。

ハナイカダは大阪付近では生駒や金剛山などでよく見かけますが、中国にも全く同じ植物が分布しています。中国高等植物図鑑(第2冊)には、同じハナイカダ属植物として他に2種が記載されていて、その中には、1本の植物で花柄が葉の主脈の合着していたり、合着せずに葉腋から出ていたりする中華青莢葉(H. chinensis)という種も含まれています(右図)。この図鑑にはハナイカダの葉と果実を薬用とし、下痢や便後血などを治すと書いてあります。しかし、日本の薬用植物図鑑にはこの植物についての記載がなく、それぼど薬効はないのかもしれません。

ところで、ハナイカダは1830年に有名なシ-ボルトによってヨーロッパへ導入されました。このすばらしい名前をもった植物がどんなふうに紹介されているのかと思ってイギリスのビ-ンという人の書いたイギリスで育つ樹木の解説書を読んでみましたところ、花に関する形態学的な説明のあと、「花には美しさがない」とか「観賞用潅木としての価値はまったくない」とけんもほろろに書いてありました。

ハナイカダ:高さ1.5mほどの株立ち状の潅木。5月頃葉の上に花が咲き、7月下旬にはまだ緑の果実が残っている。葉は楕円形ないし倒卵形で4~13cm、1~4cmの葉柄があって互生する。葉の縁には低い鋸歯があって先端は芒状に長くとがる。側脈は4~6対で裏面に隆起する。
(初出:「都市と自然」206号/よもやま図鑑(1)(1993年5月号))