ハクショウ (シロマツ)  Pinus bungeana

ハクショウ(藤森神社:京都市伏見区(2007.1.3))

ハクショウ (藤森神社:京都市伏見区(2007.1.3))

マツ科* マツ属 【*APGⅢ:マツ科】

Pinus :マツ  bungeana :人名(Alexander von Bunge)による

むかし、ある研究グループのエクスカーションで信州・諏訪大社の下社に立ち寄った際、社殿の前に大きなハクショウ(白松)が植えられているのに気がついた。ハクショウそのものは私が勤めていた私市の植物園にも植えられていたので初見というわけではなかったが、植物園のものは高さ2.5mほどの小さなものでとくに強い印象はなかったのだが、諏訪大社のものは幹が太く、背も10数mもあろうかという見事なものだった。

ハクショウの樹肌:藤森神社(2007.1.3) ハクショウは中国原産の3葉性のマツで、しばしば多幹となる。アカマツやクロマツなどと全く異なり、幹の表面は平滑で不規則なまだら模様に樹皮が剥がれ、そのあとが暗緑色や黄白色、青緑色のモザイク状に彩られる(ハクショウの樹肌:藤森神社(2007.1.3))。ふるい大木になると白緑色にもなり、ハクショウの名のよりどころとなる。諏訪大社の荘厳な境内の中のハクショウはこれぞ霊木とも言うべき強い雰囲気をもっており、後に保全協会の夏山観察バスツアーで乗鞍・霧ヶ峰へ向かう際、わざわざここを休憩地点に取り入れて参加者に見てもらった。

市立大学植物園のハクショウはいつのまにか枯れてしまったので、ハクショウという木は信州のような冷涼な気候でないと大きく育たないものかと思っていたが、ずいぶん後になって京都教育大学そばの藤森神社に立ち寄った際、境内にかなり大きな木があることに気がついた。諏訪大社のものほど大きくはなかったが、根元近くから数本に分かれた幹の直径が25cmくらい、高さは10mくらいあって、ハクショウ特有のまだら模様の樹肌も美しいものだった。この木には「昭和10年頃京都第16師団長が就任の記念に寄進されたものと伝えられる」との高札があり、樹齢は70数年に達すると思われる。球果もたくさんついていて、こぼれ種から発芽した小さな実生も見られた。

ハクショウはかなり珍しい木であまり目にする機会がなく、京都府立植物園でも神戸森林植物園でも、どこかにあるかも知れないが私は目にしていない(東京の小石川植物園には植栽されていて、写真を撮っている)。

大阪府立大学のハクショウ(2006.6.26) こんなハクショウが堺の大阪府立大学に植えられている (右写真:2006.6.26)。由来は1990年に鶴見で開催された花博での展示ために中国からもらった種子を大阪府の苗圃や羽曳野の農林技術センター(当時)で播種・栽培し、危険分散の意味で府大にも栽培を依頼されたものだという(府大・前中教授による)。府大のものは数年間小さなビニル・ポットの中で冷遇されていたが、私が退職する3年ほど前に地植えにしたら急に大きくなり、そのうち3本を退職直前の2001年3月、学生の樹木植栽実習として正門近くの植樹帯に植え出した。今はまだ2m程度の若木だが、幹にはハクショウ特有のまだら模様が出始め、いくつか球果もつけている。夏の暑い大阪でどこまで大きくなれるのか、楽しみにしている。

ハクショウ:サンコノマツとも呼ばれる。中国中・北部に分布。中国の図鑑では白皮松、白果松、蛇皮松、虎皮松などの名を記す。英名は Lacebark pine。

初出:「都市と自然」2007年2月号(No.371) (初出時には府大の写真は掲載せず)