フジ  Wisteria floribunda

(春日若宮社:2000.5.13.)

春日若宮社そばのフジ(2000.5.13.)

マメ科* フジ属 【*APGⅢ:マメ科】

Wisteria: 人名 Wistar から   floribunda: 花の多い

5月の連休の頃、学生を連れて奈良公園へ樹木観察の実習に行きますと、 春日大社の裏山に思いがけずたくさんのフジの花が咲いていることにいまさらのように驚かされます。 木の上の方まで、一面に藤色の花でおおわれているのです。 春日大社周辺で特にフジが多いのは、この植物がかつて栄華をきわめた藤原氏を象徴する植物として、 特別大事にされてきたことが関係していると思います。

フジは平安の昔から観賞用の樹木として人々に親しまれてきました。 昔は、今のように藤棚をつくって栽培することはあまり無く、マツに寄り掛かったように咲くのを観賞したようです。 このことは、清少納言の「枕草子」に、「めでたきもの」として「色あひよく花房長くさきたる藤の松にかかりたる」とあることでも知られます。

園芸品種もかなりあって、花色の白いものや、赤紫に近い色のものまでさまざまです。 春日神社の社殿のまえには「砂ずりの藤」という、たいへん花房の長い、素晴らしいフジが植えられています。 また、15年ほど以前に万葉植物園(今は「神苑」と称しています)が拡張され、かなり広い藤園がつくられました。 ここにはふだん見ることのない八重咲きや変わった花色のものなど、いろいろな品種が植えられており、連休の頃にはたくさんの人が訪れています。

図鑑をみますと、フジの仲間にはほかにヤマフジ (W. barachybotrys) があります。フジとヤマフジはつるの巻き方が右から左へ巻く(フジ)のと 左から右へ巻く(ヤマフジ)のとの違いがあるほか、花が咲くとき、花柄に近い方から先端の方へだんだんと咲いていく(フジ)のと、 全体がほぼ同時に咲く(ヤマフジ)のと違いがあります。 ただ、ヤマフジは兵庫県よりも西の方に分布するそうで、大阪近辺にあるのは全部フジと思っていいようです。

また、開花時期はちがうのですが、大阪近郊の山にはフジを1/3位に小型化したようで、白い花をつけるものが見られます。 これはナツフジ (Millettia japonica) で、フジとは別の属になっています。フジ属との違いは、フジ属では短い枝の先端が花房になっているのに対し、 ナツフジ属では、葉腋から花房が出ていることです。